代表メッセージ

「時代を超えて子どもとともに優しい間をつむぎ続ける社会」、私たちがさまざまな人たちと共に育み続ける社会です。

優しい間は、「わたし」も「あなた」も、「わたしたち」ひとりひとり誰もが尊厳ある一人の人として大切にされる社会。誰かの痛みや犠牲の上に成り立つ社会ではなく、それぞれのwellbeingが共存している社会です。

私はこれまで児童精神科医として、さまざまな環境に生きる子どもたちに出会ってきました。
明日どころか、1分先のこともわからない。そんな環境で生きている子どもたち。

 今この瞬間も、同じ世界を共にする隣人たちに、そしてもしかしたら自分にもさまざまな痛みが生まれているかもしれません。

戦禍や災害の中を生き延びている子ども
電車の隣に座ったあの子
ニュースで見たあの地域
出会ったことのないあの人
誰もが今この同じ世界に生きている隣人たち

私たちのすぐ隣にいるという現実を「仕方ない」では終わらせたくない。

そんな想いから、子どもの頃から誰の存在も、尊厳ある一人の人として大切にされるような優しい間が、インフラのようにどの子の周りにもひろがっている明日への道を、「誰もが持つ市民性」を軸として耕してきました。

私たちにとって「市民」とは、国や民族、思想などに紐づかない、この世界を共にする一人ひとりのことを指します。

誰もが影響し合いながら共に生きているこの世界は、あまりに複雑で、広くて大きくて、時にその影響を忘れてしまうことがあります。

けれど私たちは確かに、お互いに影響し合い世界と響き合いながら存在していて、それらを見つめ、受け取りながら、明日を手元から育む「市民性」を持っています。

電車で子どもをあやしてくれる方
国を超えて、そっとお互いのほおに触れ合う子どもたち
雨の日、大泣きの子どもを片手にベビーカーを押す私に声をかけ、傘をさしながら一緒に家まで歩いてくれた近所の方

周りの方の市民性に育まれて今があります。

そして何より、子どもたちの周りに市民性溢れる日々を通して、私たちが本来持っているであろう市民性を再度知り直す日々です。

優しい間を紡ぐ私たちの市民性は、優しい間により満ちていく。

市民性を通してつながりひろがる世界には、誰もが尊厳ある一人の人として大切にされ、誰もの暮らしに「明日もここにいて大丈夫」と思える文化と現実がまるでインフラのように満ちているのではないかと思います。

さまざまな人たちとこの世界を共にし、子どもの日常に必ず存在している私たちにはそんな明日を育む力があります。

私たちは市民性の可能性を信じ、一人ひとりの共に生きる人たちへの想像力の先に、誰もが尊厳ある一人の人として大切にされ、共に生きる未来があると信じています。

PIECES代表理事/児童精神科医


私の大切な体験、そして私自身の想いを綴ってみようとおもいます。
ひらかれたweの社会への冒険にようこそ。

「ねえ、どうして僕の話を誰もちゃんと聞いてくれないの?」

ある子と初めて出会った日。無言でぬいぐるみを触ったり、ボールをもったり置いたりしていた彼が、手にしたぬいぐるみの口をパクパクと動かしながら、こんなふうに話してくれたことがありました。

 
彼は、ずっと一人で抱えてきた痛み、試してきた様々な工夫、そしてその中で生まれた願いを、そっと教えてくれました。

 複雑で豊かな、彼をかたちづくる宝物のような世界から見えるのは、どんな風景なのだろう。今何を見つめ、何を受け取っているのだろう ー 


わたしは、彼の隣でその風景に耳を傾け、その世界に、目を凝らしました。

 

彼と世界の物語は、つながっている。

 
彼が体験した痛みや悲しみの背景には、それが生まれてくる社会の構造がありました。

 
世界には、さまざまな生活環境や社会状況の中で暮らす人たちがいます。

 「食や音楽…自分の一部になった文化だけを持って、ここにきたんですよ」ー 自国で暮らすことが生命の危機につながる状況から、その土地の習慣や繋がりを失いながらもなんとか逃れ、別の国にやってきた、ある人。

 
「どうせ、私が何言ったって、結局は大人の都合で決められちゃんでしょ」ー初めて話をしたとき、目を合わせずにこう教えてくれた、暮らす場所を転々としてきた、ある女の子。

 
私やPIECESのメンバーは、こうした方々、さまざまな経験をしてきた人たちがそっと話してくれた物語に出会ってきました。

私たちは、同じこの世界をともにしながら、それぞれが違う世界を見つめ、違う世界を受け取り、違う体験をしています。その、それぞれの捉えている複雑で豊かな世界のかけらは、この世界を形作る大切な物語でもあります。そしてその世界は様々に影響しあっています。

 

世界を形作る誰かの物語が痛む時、その痛みは、私たちの痛みかもしれません。今この瞬間もすぐ隣に、見えない悲しみを一人でそっと抱きしめ頑張っている子どもがいるかもしれません。

 

その子の悲しみがそのままになっている社会の構造は、誰かのことではなく、私たちのことなのだと思います。

 

一方で、だれかの大切にしてきた経験が、別の誰かの物語を豊かにしているかもしれません。今置かれた誰かの優しさが、時を超え、あの子の物語に影響しているかもしれません。

 

一人ひとりの未来のかけらを紡ぎ、子どもたちの手元へ。

 

過去に起こってきたことが今に、今この瞬間に起こることが未来に。

 

私の存在やふるまいが、誰かや何かに、何かの存在や誰かの息遣いが私やあなたに。私たちは、それぞれが様々に影響を及ぼし合い存在しています。遠くにいるまだ見ぬものたちとも、となりにいるあの人も、自分も、私たちはこの世界を共にしています。

 

社会の綻びを生み出すのも私たち一人ひとりだとしたら、時空を超えて様々なものたちと共にある「ひらかれたweの社会」の未来のかけらも、またすでに一人ひとりの中に存在をしているのだろうと思います。

 

それぞれの持つ未来のかけらを見つめ、受け取り、育みあう冒険を、子どもたちと、子どもに関わる一人ひとりと、そして、ここまで読んでくださった”あなた”と共にできたら、とても嬉しいです。

そんな未来では、「誰も話を聞いてくれない」とつぶやいていた彼もまた、様々な世界を受け取り、交わし合いながら、ともに冒険しているのだと思います。

 

プロフィール

小澤 いぶき

児童精神科医 / 精神科専門医 / 認定NPO法人PIECES 代表理事 / 京都大学医学研究科 研究協力員 / こども家庭庁アドバイザー

精神科医を経て、児童精神科医として複数の病院で勤務。トラウマ臨床、虐待臨床、発達障害臨床を専門として臨床に携わり、多数の自治体のアドバイザーを務める。
さいたま市の子育てインクルーシブモデル立ち上げ・プログラム開発に参画。
2017年3月、世界各国のリーダーが集まるザルツブルグカンファレンスに招待を受け、子どものウェルビーイング達成に向けたザルツブルグステイトメント作成に参画。
PIECESの活動を通じて、人の想像力により、一人ひとりの尊厳が尊重される寛容な世界を目指している。

小澤プロフィール (1).png

【専門医としての取り組み】

  • TF- CBT等によるPTSDのケア

  • 暴力を受けた方々へのグループセラピー

  • AF-CBT等による、困難な局面を体験した家族へのケア

  • 保護者に対する子どもへの健やかな関わり方の啓蒙、研修

  • トラウマインフォームドケアを通した子どもに関わる専門職及び職員のサポート

  • その他、子どもの発達や心のけが/回復のメカニズム等、生育環境に関する研修

<イベント登壇映像>

●TEDxHimi 2016「Passively Active」

子供の危機は大人の危機(2016/01/24登壇)

<WEBメディア>

●dTVチャンネル「NewsX」 

「全国の子どもの近くに優しい市民を増やしたい」認定NPO法人PIECES代表、児童精神科医小澤いぶきさんインタビュー(2019/05/21公開)

 

PUBLICATIONS & CONFERENCE PRESENTATIONS
(学会誌投稿・寄稿及び学会発表)

●Published Report

  • 東京都立小児総合医療センター児童・思春期精神科に身体治療目的に緊急入院した患者の臨床的検討 総合病院精神医学  (24(3), 222-229,2012)

  • 子どもの健康を支える口腔ケア(母子保健 7月号,2017)

●Articles in Peer-Reviewed Journals

  • Kenji Sasaki, Ken iwata,Minari , Minari Sasaki ,Takeshi Yamsaki, Ibuki Ozawa, Syunsuke Takagi , Shinntani Masahiro.
    Analysis of Suicide-Related Behavior Patients According to Means' Life Risk Level.
    Journal of Psychiatry (pp. 521-531.2009/6/15)

  • Satoshi Ueda & Keiko Koyama ,Fumiko Goga , Akiko Nitta , Masahiko Takahashi ,Ibuki Ozawa
    An effective example of ECT for non-drug psychosomatic symptoms and motor symptoms of Lewy body disease.
    Journal of Clinical psychiatry(35(9),1275-1282, 2006.)


 

書籍(寄稿)

『社会的処方: 孤立という病を地域のつながりで治す方法』

編著 西智弘

出版社 学芸出版社 
医療をめぐるさまざまな問題の最上流には近年深まる「社会的孤立」。従来の医療の枠組みでは対処が難しいこの問題に対し、薬ではなく「地域での人のつながり」を処方する「社会的処方」を制度として導入したイギリスの事例と、日本各地で始まったしくみづくりの取り組みを紹介しています。
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『わたしたちのウェルビーイングをつくりあうために-その思想、実践、技術』
監修・編著 渡邊淳司、ドミニク・チェン
出版社 ビー・エヌ・エヌ新社

「ウェルビーイング(Wellbeing)」とは、身体的にも、精神的にも、そして社会的にも「よい状態」のこと。Connection|つながりとウェルビーイングの章で、代表の小澤いぶきが「孤立を防ぎ、つながりを育む」のタイトルで寄稿しています。

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