NPO法人PIECESは、子どもたちの生きる世界に寛容さが広がることを願い、事業を進めています。主な事業として、様々な環境に生きる子どもたちの周りに「優しい間」を生み出す市民性醸成事業(Citizenship for Children)を展開しています。

発信ポリシー公開の背景にある願い

私たちが日々使う言葉やグラフィックといったアウトプットは、誰かに影響を及ぼしたり、現状の社会にある構造に影響を与えています。
現在社会状況の変化により、様々な発信を受け取ったり、自分自身が発信したりと、私たちはごく当たり前に多くのアウトプットに触れています。

そのアウトプットが、誰にどう届くのか、誰かの尊厳を傷つけている可能性はないか、不安を過度に煽っていないか、偏見や排除が生まれる社会構造を強化していないか、長期的にどんな影響を及ぼすのか、と立ち止まり見つめること。代わりにどのようなアウトプットがあるのか、それによってどんな可能性があるのかと、様々な声に耳を傾け、受け取っていくこと。そして、そのアウトプットの背景には、自分のどんな感情や願いがあるのかを丁寧に受け取ること。そんなことがとても大切なのではないかと感じています。

まだ出会ったこともない誰かも、隣りにいる大切な人も、自分自身も同じ社会をともにしています。
そんな誰かの傷が深まることを「仕方のないこと」としてしまうのではなく、共に生きる人たちの尊厳が大切にされる明日を願い、今回、私たちの発信ポリシーを記し、共有させていただきたいと考えました。


広報ファンドレイズの発信について

1. 全ての経験者の尊厳を大切にすること
誰もが何かしらの経験(例えばそれは暴力かもしれないし、人間関係の不和かもしません)を持っていて、その経験と共に生きています。私たちが発信するファンドレイズに関するメッセージを見たときに、その受け取り手や経験者がなにを感じるのかに想像力を持つこと、ひいては全ての経験者の尊厳を大切にすることを大事にします。

2.「伝わりやすさ」と「伝えやすさ」を混同しない
受け手にとってわかりやすい(伝わりやすい)メッセージと、私たちが伝えやすいメッセージは別物として考えます。例えば、多くの人に伝わりやすいように子どもたちが語った物語を勝手に大人のための物語として装飾したり、特定の感情を起こすための悲劇の物語として消費したりすることは「伝えやすさ」のためにやっていることであって、「伝わりやすさ」のためではありません。また、「伝わりやすさ(わかりやすさ)」を重視するあまりに、偏見を強化させたり、経験者の物語を消費させたりしてしまうことも起こり得ることです。
そこで私たちは伝えやすい物語を多用するのではなく、上記1を守った上でそれをわかりやすく整えることを重視していきます。

3. 私たちのアウトプットでラベリングを強化していないか問う
経験者の可能性を制限していないか、偏見を強化する言葉を用いていないか、アウトプットの前に確認することを心がけます。例えば、受動的 / 能動的な言葉は、立場の非対称性や優位性を強調する場合があります。これは「被支援者」という言葉が無意識のうちに支援者と被支援者の上下関係を強化している場合がある、といったことです。また、起きている出来事に対して、受動的な表現をとると、そのひとを「力がない人」として想起させてしまうこともあります。文脈によってはその言葉を適切に扱うこともできれば、知らずの間に偏ったイメージや思い込みを強化させることになりうると意識して問い直します。

✍ 藤田奈津子・若林碧子(PIECES広報ファンドレイズ担当)


グラフィックデザインについて

1. 自分の制作物が誰かを傷つける可能性があることに自覚的である
グラフィックデザインに限らず、物を作りアウトプットするための手法は近年ますます開かれたものとなり、特別な教育を受けなくとも多くの人がものづくりに関われるようになりました。
しかし「どれだけ拡散されたか、インパクトを生んだか」という成果や、デザイナー自身の働き方・キャリア形成について盛んに語られる一方で、そのグラフィックが持つ社会への影響力や人々の多様性が排除されてしまう可能性についてデザイナー同士で語られる機会は少ないように思います。
PIECESが制作する上では、用いるビジュアルモチーフ・記号が些細なものであっても、もたらす意味をなるべく多角的な視点から考えることを意識しています。

2.「受け手の気持ち」を制作者の視点で規定しない
特に福祉や医療で用いられるグラフィックデザインに対して「◯◯な気持ちになってほしい」と願いのような表現で受け手の気持ちを規定されるケースを私は何度か目にしてきました。(例えば『困っている人に温かい気持ちになってほしいため虹のモチーフを用いる』など)
しかし「温かい気持ちになってほしい」という制作者の願いには「困っている人は気持ちが温かくない」という仮定が存在している可能性があります。またグラフィックデザインが本来果たすべき情報伝達の機能という点からも、制作の初段階から受け手の気持ちを規定することはあまり本質的ではありません。
「制作の目的・意図」を明確にした上で「どんな表現でアフォードできるか」を考える。作者の願いと制作意図を混同しないために、私たちはその制作プロセスを大切にしています。

3. ユーザビリティを考えることは「美しさ」の一部と考える
情報の見やすさ・読みやすさを守ることと美しいグラフィックデザインを作ることはトレードオフでも、矛盾することでもありません。
私たちは特性を持つ方など誰かにとって分かりにくい表現方法を用いることは「ユーザビリティ観点が足りていない」のではなく、美しい制作姿勢ではないのだと考えています。

✍ 長谷川真澄(PIECESデザイナー)


PIECESが大切にしてきたこと

先ほども記載しましたが、私たちは誰もが何かの経験者でもあり、これから何かを経験するかもしれない人でもあります。だから、私たちPIECESは、「経験者である私たち誰もが受け取る」ことを考えて発信するものをつくっています。そして、発信する内容をつくることと、届けることには違いがあるとも考えています。つくったものを届ける時には、経験をしてきた様々な方の知恵を大切にしながら、「様々な生活環境の違いに対して届ける工夫」を考えて届けようとしています。

繰り返しになりますが、私たちのアウトプットは、誰かに影響を及ぼしたり、現状の社会にある構造に影響を及ぼしています。また、私自身も自分たちが生きてきたコミュニティの文化や教育、メディアなどの影響を受けています。自身のアウトプットが、誰かの尊厳を傷つけたり、偏見を助長したり、排除を促す可能性もあれば、アウトプットに触れることで、誰かへの想像力が喚起されたり、安全なつながりが生まれたり、様々な人や生命と共にある未来のかけらが生まれることもあります。
PIECESは、これまでも「子どもと共にある時の基礎」として以下の3つを大切にして、自分たち自身を常に問い直しながら、アウトプットをつくり、発信してきました。

このような時だからこそ、今この瞬間に同じ社会をともに生きている、まだ出会ったことのない誰かや隣りにいる大切な人、自分自身への想像力が広がっていったらいいなと思います。そこには、見過ごされていた痛みや願い、豊かさや可能性があるかもしれません。
そして、それを受け取った先に共に生きる人たちの尊厳が大切にされる明日があるのではないかと考えています。

最後に

「PIECESが大切にしていること」を最後まで読んでいただき本当にありがとうございました。今の状況において、ぜひご自身や身近な方々へのいたわり合いや思いやりを大切にしていただけたらと思います。

私たちはこれからも、自分たちのアウトプットを問い直し続けていきます。そして、これを読んでくださった一人ひとりが持つ多様なまなざしによって生まれる新たなアウトプットがあり、そこから生まれる「優しい間」に溢れた明日がきっとあるとも考えています。

なので、もし、このnoteに書かれた「PIECESが大切にしたいこと」を読んでうまれた願いや気持ちがあるようでしたら、「いいね」やSNS等を通して共有くださったら嬉しいです。

NPO法人PIECES代表 小澤いぶき