子どもは生まれながらに「権利」を持っており、その中には「遊ぶ権利」もあります。ただし勉強や家の手伝いが忙しい、近くに遊ぶ場所がないなどさまざまな理由から自由に遊ぶことができない状況にある子どもたちもいます。

子どもにとって「遊ぶ」とはどんな意味を持つか、私たちは日常の中で子どもたちの権利を奪っていないか、周りにいる大人にできることは何か、あそびの専門家であるしみずみえさんにお話を伺いました。

しみずみえ(こどもの育ちとあそびの専門家)

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玩具メーカーでの商品企画開発、KCJ GROUP (株)でのキッザニア東京の創業に携わったのち独立。現在は親子あそびの専門家として、保育園の設立支援、水族館/科学館/室内遊び場などのプログラム開発、子ども向け施設のスタッフ研修、親子ワークショップの実施などの仕事に関わる。

著作『あそびのじかん-こどもの世界が広がる遊びと大人の関わり方』英治出版
キッザニア東京をつくってわかった、「あそび」のひみつ。
のびのび遊ぶってどういうこと? こどもの好奇心や意欲がふくらむ創造的な遊びの見つけ方、関わり方。


 

- 「あそびの専門家」という肩書を持たれていると思いますが、普段はどんなことをされているのですか。

しみずみえさん(以下、しみず):子どもとおとなのあそびや活動に関わること全般に携わっています。
例えば水族館や科学館、遊び場などで親子向けのコンテンツを企画したり、遊び方や絵本など、遊びにまつわる講座をしたりしています。それまでは玩具メーカーでの商品企画開発、キッザニア東京の創業に携わっていました。

- 子どもと関わる仕事にしようと思ったきっかけは何だったのでしょうか。

しみず:高校生の時、学校の中に自分の居場所をなかなか見つけられなかったことがありました。そんな時、友人が地域のボランティアセンターに登録したと聞き、そういう選択肢の広げ方もあることを知りました。
そこからのご縁で、ハンディを持った子どもやそうでない子どもがおもちゃを介して一緒に遊ぶ場でのボランティアに参加するようになったことがきっかけです。子どもたちが心を開いて私を受け入れてくれて、自分のいるべき場を作ってくれたと感じました。自分が生かされている感覚を味わったんですよね。そこから子どもに関わる活動に携わるようになりました。

 

おはなし会の様子。絵本に出てきた大根が登場。

- 子どもにとって「遊ぶ」とはどんな意味があるのでしょうか。

しみず:合理的な目標がなくても、子どもの心がワクワクすることが遊びだと思っています。
「遊びは何の役に立つのか」と聞かれることがあります。昨今、よく遊ぶ子どもはかしこくなると言われるくらい、遊びは心身の発達に役立つことばかりです。でも何かの役に立たせようという捉え方をすると、それはもう子どもの領分にある遊びではなくなってしまいます
「かしこくなる」「集中力がつく」などの結果はあくまでも結果であり、遊び自体は子どもたちのワクワクという想いからスタートするものだと思っています。

- しみずさんが考える「遊びの魅力」とは何でしょうか。

遊びの魅力は大きく3つあると思っています。
1つ目は、物事への関わり方や向き合い方を見つけるヒントになるということ。子どもの好きな関わり方で何かに熱中する体験が、遊びの中でできます。
2つ目は、憧れの気持ちが持てるということ。憧れの気持ちは向上心にもつながります。
3つ目は、退屈を自分でなんとかできるようになるということ。自分の時間を誰かにコーディネートしてもらうのではなく、時間の空白を自分なりに過ごすことができるという力は、おとなになっても大切な力だと思っています。

子どもたちには、本来持っている力があります。その力を呼び起こすパワーが、遊びにはあると思います。
今の社会では、子どもたちがデジタルに触れないことは難しいことです。それを受け入れたうえで、子どもたちには、例えばデジタルゲームのように誰かが調整しているものではなく、自分たちでルールを作ったり、調整したりと、自由度が高い遊びをたくさんしてもらいたいですね。

しみず:おとな自身が「自分が大切にされている」と感じ、自分の生き方に誇りを持てることは、子どもにとっても大切なことだと思います。
キッザニアでは、子ども向けの職業体験を通じて、仕事の素晴らしさを伝えていました。でも日常の中で、子どもたちが一番目にするのは、保護者や身近にいるおとなの働く姿なんです。
子どもに伝えることと同じように、保護者や大人に向けて、「自分の仕事に誇りを持ってほしい」とメッセージを伝えることが大切だと考えるようになりました。
子どもに関わるということは、子どもだけで切り離すことはできないのです。その子の近くにいる大人のことも大事に思うことが必要だと思います。

- 子どもやおとなにとってどんな存在になりたいですか。

しみず:自分は裏方でいいと思っています。あくまでも主役は子どもとその子に関わる大人たち。子どもたちが自分を大切に過ごすためのヒントを伝え、それぞれの生活に活かしてもらえたらいいなと思っています。

- 子どもの権利が守られる社会にするために、必要なことは何だと思いますか。

しみず:日本では児童労働のような問題はあまりないかもしれません。しかしそれとは違う意味で、権利に関係するさまざま課題があるように感じます。その背景には、保護者をはじめ、子どもに関わる人たちの「こうしなきゃいけない」が強すぎるのではないでしょうか。

子どもの権利や尊厳という以前に、子どもをちゃんとしつけなければならないという、社会から受ける目に見えないプレッシャーを感じている人が多いように思います。何が正しいかも分からないまま、そのプレッシャーに応えるために心を抑え、大人も子どもも苦しくなっている気がします。「こうじゃなきゃいけない」からまずは自由になろうよと伝えたいですね。
子育てにたった一つの正解はありません。あるとしたら、子どもと保護者の間で培われたものが正解で、親子の数だけ違う形の正解があります。

目の前の子どもと自分自身がどうありたいかということに素直になり、自分も子どもも大切にされる存在だということに気が付くことが大切ではないでしょうか。

オンラインインタビューの様子。
PIECESスタッフと学生インターンで和やかに行われました(右下がしみずみえさん)。

- 子どもの暮らす世界に生きている私たちは誰もが、子どもの暮らしや今、未来に影響しています。最後にこれを読んでくださっている方へ、メッセージをお願いします。

しみず:子どもの育ちやその環境を考えることは、大きな意味で国の未来を考えることだと思っています。
これから人生を築き、私たちより長くこの国で生きる子どもたちが、どんな未来を過ごすのか。子どもがいるいないに関わらず、どんな人にとっても、未来に向けて何かをする先にいるのは、子どもたちではないでしょうか。一緒に未来を考えましょうと伝えたいですね

そして子どもに関わる人は多様であればあるほど、その子にとって豊かな経験になります。保護者や学校の先生だけではなく、学生や地域の方など保護者にはできない関わりができることに自信と誇りを持って、子どもたちに関わってもらいたいなと思います。

【遊び×子どもの権利条約】
「生きる権利」「育つ権利」「守られる権利」「参加する権利」の大きく4つの権利に分けられる子どもの権利条約の中では、「遊ぶ権利」についても定められています。

第31条 休み、遊ぶ権利 子どもは、休んだり、遊んだり、文化芸術活動に参加したりする権利をもっています 。

(参照:子どもの権利条約 日本ユニセフ協会抄訳)

インタビュー/執筆 広報 矢部杏奈