2019.12.26~28日の3日間、九州大学教育学部で集中講義が行われ、代表の小澤いぶきが講師を務めました。「まちづくり実践論」という授業科目で、PIECESが進めてきた「孤立しやすい環境にいる子どもに新しい関係をつくる市民育成事業『Citizenship for Children 』(旧:コミュニティーユースワーカー)」を参考としながら、児童精神科の医療の現場から見えてきたこと、そして、世界の動きも踏まえて、九州、福岡という地域で私たち市民が、子どもたちの生きるまちに何ができるか?を考えるきっかけとして講義を展開していきました。講義は3日間とも公開講座でもあり九州大学の学生だけではなく、福岡県内の学生や社会人の方など様々な立場の方が参加されました。
◆1日目
1日目は、濃い3日間を過ごしていくために初めにチームビルディングを行いました。トランプを使用しグループを作り即興物語を作ったり、自己紹介シートを使って受講の目的等をグループで話したりを通して、緊張でいっぱいだった教室もあちこちで笑顔や笑い声が聞こえ和やかな雰囲気になっていきました。和やかな雰囲気になったところで講義を展開していき、「子どもを取り巻く現状と課題」では、小澤の医療現場での子どもとの経験を踏まえながら児童虐待の現状や子どもに及ぼす影響等、「子どもの発達の基礎」では、発達段階や愛着について講義を行いました。①言語化せずに相手に『嫌な気持ち』を伝える体験、②話しているのに全部無視される体験をペアになって実際に実践してもらい、言動の背景にどんな気持ちが潜んでいるのか、愛着を育むには何が大切なのかを考えました。
講義を踏まえ、映画『少年と自転車』を見てもらい、児童養護施設に入所している主人公や纏わる人たちの言動の背景にはどういった気持ちがあったのかを4~5人のグループを作り考えていきワールドカフェ形式で共有していきました。次に、自分が子ども時代を振り返ってもらい、モヤモヤしたこと、こういうサポートが欲しかったなども共有していき、「30年後子どもも自分も幸せになる未来のまちとは?」を考えもらいました。地域視点では老若男女関係なくいろんな人が関われる場所が欲しい、学校教育視点ではフリースクールを多くの学校に設置したらいいのでは、などなど各グループ時間が足りないぐらい盛り上がっていました。
◆2日目
2日目は、福岡で活動されているNPO法人まちづくりLABの代表永田充さんをゲストに呼んで、「訪問支援から見えてきた子どもの支援のあり方」をテーマに不登校・ひきこもりの現状や訪問支援について話をしていただきました。「“良い支援”をしようとすると見失うものがある」とフレーズから講義スタートし、序盤から考えさせられる内容です。なぜ訪問支援が必要なのか、支援をするうえ子どもだけはなく家族への支援の大切さなどをご自身の体験を踏まえて話していただきました。不登校になっている自分の身近な人への今までの対応はよかったのかを振り返ったり、今後、不登校の子たちと出会ったときにどう関わっていけばいいのか考えたりするきっかけになりました。
2限目からは「社会的処方と市民性」「アセスメントとストレングス」「コミュニケーション」の3つをテーマに小澤が講義を展開していきました。子どもに限らず人は疲弊しきるとSOSを出せなくなり、孤立にもなっていく。疲弊や孤立やする前に、原因を取り除くコミュニティの存在が重要になるということで、社会的処方の存在の大切さ。そのためには、「市民性」の関わりも重要なり、市民性とは何か、人と人の「間」とは、何かを実践を踏まえ考えていきました。また、人は自分の価値観等で物事を判断しそうになりますが、判断する前に、子どもの言動にどう思いがあるのか「ああかな、こうかな」と仮説を立てていくことで、子ども理解にも繋がっていくなどを理解してきました。
◆3日目
3日目は、福岡市こども総合相談センターの藤林武史さんをゲストに呼んで、「子どもと家庭を支えるコミュニティケア」をテーマに児童虐待の現状や福岡市での現状や取り組みなどについてお話をいただきました。法制度は整えられているがニーズに応えることができないサポート体制の現状など、ニュースでは知ることができないことに触れることができていました。児童虐待が起きたとき児童相談所は最後の砦。児童相談所だけが頑張るのではなく、地域コミュニティ、市区町村、里親など様々な立場が連携していくことで、虐待による死亡はゼロになっていく。福岡市のこどもの現状を知るだけでなく、まちづくりを考える上で必要なことを学ぶ機会になっていました。
「福岡における課題に対しての社会的処方の可能性」では、受講者の方から自分の経験を話していただきました。『家を開放しておやつを提供している』『子ども会に行くことが楽しかったが、今は少子化で少なくなってきている』『子育てに手厚い様子はあっても情報が広まっていない』など福岡で暮らしているからこそ気づくこともあり、また、中心部を離れれば行政と家庭の間に入るNPOなどの団体がない現状などにも触れることができました。
今までの講義内容を踏まえて、福岡における子どもたちが利用できる地域資源マップを「0~12歳」「13~18歳」「18歳以上」のグループに分かれて作成しました。受講者それぞれが発見した社会的資源を横軸『情緒的or機能的』縦軸『利用ハードルが低いor利用ハードルが高い』に沿って、マッピングしてもらいました。「○○がこの位置なら、○○はこっちじゃない」「○○も資源になるのかな」など各グループ盛り上がりながら作っていきました。また、想像力を発揮するための実践として「クリエイティブケースワークショップ」を行いました。取り扱う事例も受講者の方から気になる子どものケースを出してもらいました。情報がしっかりあるケースもあれば、情報がないに等しいケースもあり、限られた情報の中で、その子が持つストレングスや願いを探っていきました。そのあとは、その子の願いに沿う関わり方は何かを地域資源マップを参考にしつつ考えていきました。学生だからこその視点や福岡ならではの意見も出るなどして、自分たちが住んでいる福岡・九州で何ができるのか考えるきっかけにもなったと思います。
3日間の講義を通して、「自分を振り返ることができた」「自分がしていることに自信が持て」「有意義な時間でした」など様々な感想を聞くことができました。
今回の講義を踏まえて、受講者の方それぞれが地域で暮らしていく一人の市民として何ができるのかを考え、実践していかれることで、福岡がどう発展し盛り上がっていくのか楽しみです。