こころの支えになる人
突然ですが、みなさんにとって家族って、どんな存在ですか?
それでは、しょっちゅう会えるわけではないけれど、「あぁあの人に話したいな。」と、ふと思い出す人を思い浮かべてみてください。その人は、みなさんにとって、どんな存在ですか?この2者の存在に、共通するものはありますか?
私は中学高校とお世話になった先生がいます。私が高校を卒業し、進学のため上京してからも、誕生日、成人式…ふと先生のことを思い出して連絡をしてしまうし、これからも私は、人生の節目節目に、先生に連絡をしてしまうのでしょう。「きっとこの人は、私の事を温かい目で見守ってくれている。」その安心感が、家族と先生の存在に共通していると私は感じています。
安心感は、人が生きていくうえでの自信につながります。1人でも多くの子ども達にとって、安心感を与えられる家族のような存在になりたいと、活動を続けているCYWもPIECESにはいます。
今回スポットを当てるのは、そんなCYWの第2期メンバーである糸賀貴優さんです!
「家族のことで悩みを抱えた子ども達の支えになりたい」
その思いを実現してくれたPIECES
現在、慶応義塾大学法学部3年生で、家族法や、家族社会学についての勉強をしている糸賀さん。自分の過去の経験からも、人の家族の話を聞くのが好きで、家族の意義や在り方に関心を持ち、高校生の頃から里親養子縁組のイベントや勉強会に参加していたそうです。その経験も生かして、家族のことでなにか悩みを抱えている中高生の子たちが、悩みを相談できる居場所づくりがしたいと、その思いをずっと温めてきました。
充実した大学生活を送る糸賀さんは、PIECESの2期生募集をFacebookで知りました。そこでPIECESに参加することを決めた理由は、専門家のバックアップのある状態でやりたいことが出来る環境が、PIECESには整っていたから。なにか力になりたいという気持ちはあって、でも不安が勝り行動に起こせない人でも、PIECESの環境でなら自分らしく活動ができると確信し、糸賀さんはPIECESに一歩を踏み出したのです。
仲良くなった先に一歩踏み入れる勇気を持つこと
PIECESでは、実際に子ども達を集めて、勉強を教えたり遊んだり、料理イベントを通して子ども達の居場所作りをしている糸賀さん。誰とでもすぐに仲良くなれる糸賀さんだからこそ、子ども達と仲良くなっても、何かあった時に相談したいと思ってもらえる存在になれているのかどうか、不安になると言います。
子ども達にとって、糸賀さんはどういう立ち位置なのだと思うかを私が聞いた時、「男の子からしたら、私は頼られるタイプじゃないから、にぎやかし位置なんだけど、いないと寂しいな、みたいなタイプだと思う。女の子からしたら、結構話しやすいんだろうなとは思う。ノリが若いから、恋バナも話せるしね。」 と糸賀さんは答えてくれました。
勉強も遊びも一緒に全力でやる、お兄ちゃんお姉ちゃんみたいな立場のCYWだからこそ、支えられることがあるのではないでしょうか。
子どもの支えになる前段階として大切なのは、
自分の価値観をきちんと認識すること
PIECESの良いところとして、ゼミ形式の研修があることを糸賀さんは挙げています。自己理解のためのゼミが多く、自己理解を通して自分の価値観を自分で認識し、そのうえで、自分の価値観に引きずられることなく、その子にとっての適切なアドバイスをしようと心がけるようになれると言います。
子どもの相談にのる時、CYW側の価値観がとても反映されたアドバイスになってしまうことに、糸賀さんは課題を感じています。人の人生の事なのに、自分の価値観が色濃くでたアドバイスをしてしまうことは良くないのではないか、と。そんな時にPIECESのゼミは、糸賀さんにとって、また、糸賀さんにつながっている子ども達にとって、良い影響を与えているのでしょう。
長く関わる事で見えてくるもの
子ども達が集まる居場所に通い続けて1年ほどたつ糸賀さん。始めの頃は、「居場所に行っているだけだな。子ども達と遊んでいるだけだな。」と考えてしまい、少し悩む期間があったようです。ですが糸賀さんは、子どもにとっての自分の立ち位置や関わり方を考え続け、この居場所に自分の存在意義を見出していきました。
時が経つにつれて、子ども達と関わるだけではなく、居場所を作っている大人側の人間や、居場所の卒業生の子と関わるようになっていきます。子ども達と関わることと同様に、大人側の人間と今後のPIECESについての話をすることを、糸賀さんはとても大切にしています。
人との関係に終わりはない
「達成感を少しずつ感じながら進んでいると思っていたはずが、結局わからない。」と、糸賀さんは言います。子どもと接することを含め、現在の活動は、「子どもにとっては私じゃなくてもいいのではないか」と悩むこともあったそうですが、現在は深く考えすぎないようにしているそうです。成果がでているかどうかは他人の気持ち次第で決まる、と切り替え、その中で自分が出来ることを見つけて居場所に関わり続ける糸賀さんは、これからも子ども達にとってかけがえのない、大切な存在であり続けるのでしょう。
「目の前にいるその子」との関係性に、終わりはありません。だからこそ、もどかしさや無力感を感じることもあるでしょう。ですが、子どもからの反応がダイレクトに返ってくるぶん、自分が認められた瞬間は、とてもかけがえのない経験になると私は思います。
コミュニティーユースワーカーをやっていると、自分の存在意義を感じる場面がたくさんあると糸賀さんは言います。PIECESを通してコミュニティーユースワーカーは子どもたちと会います。仲良くなるまでは難しいけれど、それを乗り越えたところに、自分の存在意義を見出しているのでしょう。一回目会って無視、二回目で反応はされるけどそっけない、三回目でやっときちんと反応してくれて、徐々に話せるようになって卓球とか一緒にしてくれるようになって、最終的に悩みを打ち明けてくれるようになる。そうやって、人と心の距離を徐々に縮められることにやりがいを感じ、これからも続けていきたいと話してくれる糸賀さんの表情は、とても誇らしそうでした。
PIECESは想いを語れる場所
「家族の話を聞くとその人の性格や考え方が見えやすいと感じることが多いから、他人の家族の話を聞くのが好きです。」という糸賀さん。だから今後は、10代から20代の子の結婚観や、家族構成や家族とのエピソードに耳を傾け、それを記事にして多くの人に伝えていきたいと考えているようです。自分の想いを「やりたい」と言える環境がPIECESにはあります。そこから「いいじゃん!」が生まれ、また新しく、想いがカタチになっていくのです。
自分の想いを言葉にして他人に伝えることは簡単だとおもっていたけれど、実はそうではありません。でもそんな中、自分のやりたいことを言葉にして伝えられる糸賀さんを私は尊敬しています。また、そうやって自分の想いを言葉にして伝えられる人が増える世の中になっていけば、更に生き生きとしている人が増え、社会が明るくなるのではないか、と私は思います。
子どもでも大人でも変わらず、人は未熟です。だからこそ、ずっと気にかけているわけではないけれど、ふとした時に思い出せる大切な存在がいることは、人が生きていくにおいて、とても大切なことです。そのような、人との関係性を築いていける環境が、PIECESには用意されています。自分のへこんだところを人に埋めてもらう、人のへこんだところを自分が埋める。そうやって人間関係を築いていくことは、素晴らしいことではないでしょうか。
光成雛乃(みつなり ひなの)
お茶の水女子大学 生活科学部 人間生活学科 発達臨床心理学講座4年
広島県出身でお好み焼きが大好き。中学生の時新体操部に所属していたため、いまだに体が柔らかい。PIECESでは、実際に現場に行って子どもと関わり、広報ではインターン生としてライターをしている。