【CYWずかん】「ちょっとだけ会う」を続けて、見えてきたこと。 社会人だから考えられる 支援の在り方の多様性

頑張りすぎない支援のかたち

 

皆さんは、コミュニティユースワーカー(CYW)に対して、どのようなイメージがありますか?

子どもと一緒に遊んだり、勉強を手伝ったり、楽しくおしゃべりをして過ごしたり。きっと、子どもと一緒に過ごして親密な関係を築いていく人たち、というイメージをお持ちの方が多いのではないでしょうか。

もしかしたら、PIECESという団体や、子どもの支援の活動に興味がある社会人の方のなかには“支援”ということを考えてどうしても、

「そうはいっても仕事をおざなりにするわけにはいかないし…」
「子どもと親密な関係を築いていきたいが、中途半端に関わるのもいかがなものか…」

と、なかなか子どもの支援に関わっていく一歩を踏み出すことのできない方もいらっしゃるかもしれません。それはとても自然なことだと思います。

今回ご紹介する中村朋也さんは、平日昼間は公務員として働くCYWです。彼は公務員という立場上、平日の活動にあまり参加することができず、子どもと継続的に関わり、密接な関係を築くことが難しく感じていました。
最初はなかなか活動に参加することが出来なかった中村さんは、頑張って「たくさん会う」ことで子どもたちと密接な関係を築いていくのではなく、子どもを含め色々な人に「ちょっとだけ会う」を続けることで信頼関係を構築していくようになりました。

では、「ちょっとだけ会う」とは具体的にどういうことでしょうか。今回は、社会人という環境下で活動するコミュニティユースワーカー、中村さんなりの関わり方を探っていきます!

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余裕のない大人の社会に、0.1%の余裕を

 

現在、公務員として働くCYW一期生の中村朋也さん。主に豊島区にある、中高生のための児童館で、毎週金曜日と日曜日に活動しています。

中村さんはPIECESに対し、児童館での活動に参加するCYWの人員調整などを毎週する一方で、児童館の職員に対しても定期的に連絡を取ってイベントの日程調整などをする、PIECESと児童館の架け橋的存在です。

公務員という立場上、平日の昼間に活動することが難しい中村さんは、仕事後や仕事の合間に出来る関わり方として、現状に至りました。活動では、子どもとの関わりはもちろん、大人との関わりにも気を付けているといいます。

 

 ”たとえば児童館の職員は、週5で子どもたちに関わっているので、子どもの情報量や関係性はPIECESよりも確実にあります。更に、PIECESに好意を持って活動させてくださっているからこそ、尊重し、しっかりと継続したコミュニケーションを取ることで、CYWと職員との双方に心地よい空間がつくれるよう心がけています。”

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児童館の職員と定期的にコミュニケーションを取りつつ、CYWとも連携します。CYWには、活動に参加してほしい気持ちはあってもそれを押し付けず、CYW自身がリラックスした状態で活動できるよう、心がけているそうです。

また、子どもの関わる社会全体を考えたときに、社会には余裕がないように感じられる、と続けます。社会をかたちづくる存在の大多数は大人です。そんな大人ひとりひとりに、他者にやさしく接するだけの心の余裕がないと、結果的に社会全体の余裕がなくなってしまう、と中村さんは考えています。

子ども達が関わる社会とPIECESがつながっていれば安心です。しかし、そんな子ども達がPIECESのもとを離れて飛び込んでいく社会に余裕がないと、PIECESのもとで取り戻した尊厳を、また失いかねないのではないだろうか。そのように中村さんは危惧しており、子どもの支援をしているからこそ、大人にエネルギーを割くことの大切さに気付きました。

 

 ”例えば自分がAさんの話を聞いて、Aさんに0.1%の余裕が生まれたとして、そのことでAさんは他の人にやさしく接することができる。そしたらそのやさしさに触れた人にまた余裕が生まれて、その連鎖が続いていく。そうやって、大多数の大人みんなに0.1%の余裕が生まれれば、社会全体に余裕が生まれるんじゃないかなって思うんです。”

 

中村さんが「100%」ではなく「0.1%」の余裕をつくることを心がけているのには理由があります。
たとえば相手の中にあるなんらかの課題に対して、自分が「これがいい!これで課題は解決する!」と考えて余裕をつくる努力を100%した場合、目の前にある課題は解決されたかのように見えるかもしれません。しかし、相手の課題を100%自分で解決しようとしたときに、相手の成長や自立、達成感といった長期的な解決を妨げてしまう可能性もあるのです。

そのため、中村さんは「0.1%」の余裕をつくることで相手の成長に寄り添うことができ、子どもも大人も自分らしさを感じられる充実した社会ができるのではないかと考えています。そうした社会を実現するべく、中村さんは大人とのコミュニケーションも大切にしているのです。

 

相手の心に伴走するコミュニケーション

 

大人とコミュニケーションをとることを大切にしている中村さんがPIECESに興味を持ったきっかけもまた、コミュニケーションでした。

過去に職場でパワハラが起きた際に、頭ごなしに正論を部下にぶつける上司を見て、「いくら正しいことを言っているとしても、相手に伝わらなければ意味がない」と感じた中村さんは、コミュニケーションに興味を持ちました。その後、コーチングを勉強したり傾聴のワークショップに参加したりするうちに、職場以外で学んだことを活かす場所を探し始め、ボランティアという関わり方にたどり着きました。

 

 ”最初は対人のボランティアを探していて、学習支援系のボランティアがたくさん見つかりました。けど、学習支援だと「教える側」と「教えられる側」で関係が完結してしまっているように感じて、自分のやりたいこととは違いました。そんな中、子どもに寄り添って伴走するという、唯一ぴたりとくる考え方だったのが、PIECESでした。”

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中村さんがワークショップなどで学んできたことは、相手とは対等の関係性で相手の心に寄り添って、相手自身の中にある答えを導き出すのを促す、という役割でした。そうした役割を活かす可能性が詰まっていた団体が、PIECESだったのです。

しかし、PIECESの理念が中村さんにとって素晴らしいものでも、職場で共感されることはあまりないそうです。しかし、共感されなかったことで気づいたことがあったと、以下のように仰いました。

 

 ”自分の正解は相手にとっての正解じゃない可能性もある。PIECESの活動を職場の人に話したときに「自分の場合はこうだったよ」という風に反論する人もいて、自分が何かを主張した時に、何かしらネガティブな感情を抱く人もいるということを知りました。それからは、自分が何かを話すときにはその裏で悲しんでいる人もいるかもしれないということを念頭に置いて話すようにしています。”

 

子どもにとって心地よい社会をつくることで、
すべての人にとって心地よい社会をつくりたい

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中村さんにとってCYWとはどのような存在か伺ったところ、CYWはちょっとだけ栄えた「街」である、というこたえが返ってきました。

 

 ”子どもにとって必要な様々な資源が散らばっている「街」のような状態が、CYWという存在だと思います。密に関わるCYWは迷ったら相談できるような存在なので、その子の目の前にあるコンビニです。そのCYWが忙しかったりして関われないときに行く、ひとつ先のコンビニというポジションにもCYWはいます。自分は、ここにいけば何かはあるだろう、というセーフティネットのような、歩いて10分のスーパー、もしくはコンビニや街灯がうまく稼働しているか点検する人かもしれません。”

 

自身もCYWとして子どもと関わる一方で、活動の場を俯瞰して見ている中村さんは、CYWという概念をこのように表してくれました。恐らく、子どもとも大人とも密接に関わる中村さんだからこその表現なのではないでしょうか。

すべての人にとって心地よい場所を提供すること。それは、一期生としてCYWの在り方や団体との関わり方を模索した末に見つけた中村さんならではの関わり方であるといえます。子どもや大人という言葉の枠にとらわれず、すべての人に心地よい社会をつくるための中村さんの草の根運動は、少しずつではあるかもしれませんが、しかし確実に世の中に広がっていくことでしょう。


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立教大学ドイツ文学専修4年 渡邊紗羅
PIECESで広報としてイラストを描いてチラシなどを作成しているうち、PIECESに関わる人たち一人一人の魅力を文字で伝えたいと思うようになり、『コミュニティユースワーカーずかん』シリーズを企画。映画鑑賞が趣味で、暇さえあれば劇場にお金を溶かしてしまうため常に金欠気味。PIECESでのあだ名は「さらたん」。実は大学のサークルで呼ばれた「さら単細胞」が由来で現状に至る。