【CYWずかん】「求めた“助けて”に応えてくれる人はいなかった」家庭環境に苦悩した先に見えた、安森正実さんの生きる意味とは

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彼女から溢れ出るエネルギーは周りを笑顔にする

 

PIECESで他のスタッフと話をしている時も、子どもと関わっている時も、いつも笑顔で明るく楽しそうにしているコミュニティーユースワーカー1期生の安森正実さん。その溢れ出るエネルギーはどこから生まれるのだろうと、私はいつも不思議に思いながら、そんな彼女をとても尊敬しています。
しかし、彼女は、元気で明るい性格からは想像できないようなつらい過去を抱えていました。彼女がこれまで生きてきた環境はどのようなものだったのか。そんな彼女がどうして今PIECESで活動しているのか。そんな安森さんが、社会に対して、子ども達に対してどんな想いを持って活動しているのか。
今回は、安森正実さんにスポットを当てたコミュニティーユースワーカーずかん、第5弾です。

 

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人のために生きることが、自分の生きる意味

 

安森さんは小さい頃から家庭環境に悩んできました。母親は精神疾患で頼ることができない。父親も余裕がなく、安森さんは子どもらしく振る舞うことができず、誰にも頼ることができない生活を送ってきていました。そんな中、当時高校生だった安森さんは、生徒の内面まで深く理解しようとする先生に出会います。その先生と話すにつれて自分が辛い状況に置かれていることを認識し始めた安森さんは、体調を崩してしまいました。
両親は頼れる存在ではない。担任の先生は、“辛い状況が目に見えやすい生徒”への対応に追われている。信頼できる先生に相談したら、それから避けられるようになってしまう。スクールカウンセラーに「秘密は守るから、なんでも話して。」と言われて話したら、他の先生や親に筒抜け。区役所を駆け回りようやく見つけた病院の先生もそっけない。安森さんが求めた「助けて」に応えてくれる人はおらず、期待したことが何度も何度も打ち砕かれていく。そんな状況に安森さんは、「本当に私には頼れる人がいないんだな。」と、思わざるを得ませんでした。

『体調がずーっと悪くなった。吐き気、おなかも痛い、過呼吸。呼吸の症状だからと、1人で呼吸器内科に行ったんです。過呼吸は呼吸器内科じゃないと先生に言われて、ベットに寝かされて。少ししたら、精神科から2人臨床心理士が来てくれたんです。臨床心理士に出会ったのは、これが初めてのことでした。』

安森さんが初めて出会った2人の臨床心理士は、親身になって話を聞いてくれたと言います。その臨床心理士は、親に知られることなく症状を治したいという安森さんの想いを汲み取り、これから安森さんがする行動を紙に書いて、行動をひとりで起こせるようにサポートしてくれたのです。これまで求めた助けを打ち砕かれてきた彼女にとって、ここまで親身にサポートしてくれる人の存在は、衝撃でした。
そして大学進学のために進路を考えた時、ふと思い浮かんだのは、友達から相談を受けることの多かった自分の姿と、あのとき出会った臨床心理士の姿だったのです。

 

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目的のある支援ではない、
ただ、その子らしく生きてほしい、という思いで

 

現在、昭和女子大学 人間社会学部  心理学科3年の安森さん。
PIECESに興味を持った理由は、安森さんには“子ども達が24時間どこでもかけこめる場所を作りたい”という夢があったから。その夢を叶えるためには、様々な子の事情や問題を知ることや、その問題の解決方法のプロセスを知ることが必要だと考え、PIECESで活動しているのです。

「勉強しようと思っても、気持ちが安定していないとできないから。」

学習支援を通して勉強を一緒にやることも、もちろん子どものためになります。ですが、学習支援では、勉強をすることがメインで、どうして勉強ができないのか?どうしてやる気がでないのか?という、気持ちの部分まで介入することは難しいそうです。つまり、その子が勉強したいときは勉強の時間を過ごし、遊びたいときには全力で一緒に遊べるような寄り添い方は、学習支援ではできません。

だからこそ、子ども達と、継続的に、また、目的のある支援ではなくて、目の前のその子に元気に生活を送ってもらいたいという思いで関わりたいと思っていた彼女は、勉強以外の何事にも一緒に取り組むことができる“PIECESのコミュニティーユースワーカー”に魅力を感じたのです。

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他愛のない話をする場の大切さ

 

安森さんが「24時間どこでもかけこめる場所を作りたい」という夢を持ったきっかけは、彼女の家庭事情が原因でした。家にいることがどうしてもつらくなったときに、彼女は家出をします。しかし、家を出たはいいものの、彼女はどこにも頼れる場所がなかったのです。

『家でごたごたになって、家嫌だ、ってなって、家を出た時があって。これからどうしよう、どこに行こう。って思ったときに、どこにも行ける場所がなくて。』

自分の家庭事情を誰かに相談したいと思った時も、今通っている学校の先生を積極的に頼ることはできませんでした。「先生と生徒」という距離に壁を感じたのです。
また、友達から頼られることが多かった安森さん。友達の間で彼女は「頼りになる人」となってしまい、彼女が「頼れる人」はいませんでした。
途方に暮れていたところに交番を見つけて近くまで行ってみたけれど、中には人がおらず、電話が置いてあるだけ。安森さんは“人に迷惑をかけたくない”という気持ちが人一倍強く、交番に置かれた電話を頼ることもできませんでした。

『電話するほどの事なのかなって、どうしようって、電話して警察に来てもらうのも申し訳ないし。迷惑かけたくないし。交番を出て、目の前の道路に飛び込んじゃおうかなって思った。』

そんな安森さんは、彼女が卒業した小学校に、まだ明かりがついていることに気づきました。先生たちはまだ仕事をしていて、安森さんはそこにいた先生に、「母校に遊びに来てみました。」と声をかけ、自分の知っている先生の話や、なんの仕事をしているのかなどの会話を交わしたのです。家庭事情や、自分の悩みを聞いてもらったわけではありません。ですが、先生たちと交わした他愛のないに会話に、安森さんは救われたのです。

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しんどいことを必死に隠そうとしてしまう
子どもの支えになりたい

 

『先生には、「安森さんはいつも笑顔で、幸せそうね、親の育て方がよかったのでしょうね。」としょっちゅう言われていた。クラスの同級生にも、「おまえほんと楽しそうだな、良いことでもあった?」とか。私がいつも笑っているから。辛いことあっても全然気づかれない。だから、先生に自分の家庭事情を話したときは、逆にひかれた。「よく学校来ているね。」って言われたこともある。』

安森さんの明るく元気な性格から、学校の先生にも、クラスの同級生にも、自分の辛さに気づいてもらえず、誰にも弱さを見せられないつらい生活を強いられていました。
だから安森さんは、自分自身のような、つらさを1人で抱え込んでしまうような子、人に頼りたくても頼ることのできない子の支えになりたいと思っています。

『毎日のように日常会話をできる人じゃないと、何かあった時に、安易に「助けて」が言えないと思うから。』

他愛のない日常報告をしながら、会ってはないけれどつながっている、という感覚を持てる人がいること、また、実際に会って、一緒に遊び、料理を作りながら会話を交わすことが、どれだけかけがえのないものか。
そのような人間関係が、当たり前にあるものではないものだということを肌で感じた安森さんだからこそ、彼女は自分らしく、コミュニティーユースワーカーとして活動しています。

 

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子ども達の可能性を広げたい

 

安森さんが作っている居場所が、1人1人の高校生居場所になること。そこに来る同級生や大人と関わることを通して、子ども達に、自分の世界を広げていってもらうこと。また、人と信頼関係を作っていくプロセスを、居場所を通して実感してもらうこと。
これが、安森さんが子ども達に対して抱いている想いです。

様々な事情から、親が、1人1人の子どもの可能性を引き出してあげられなかったかもしれない。けれど、自分ってこんなことできるんだ!と、子ども自身で気づくきっかけになったり、周りにはこんな人もいるんだと、また、自分の知らない世界はたくさんある、ということに気づいてもらえるような場にしていきたいと話してくれました。

居場所を作り始めてから1年。安森さんは、今は子ども達と信頼関係を築き、安心感の土台作りをすることを大切にしています。そのうえで、様々な職業の人と接する機会を設けたり、高齢の人と触れ合ったりしながら、『ありがとう』という言葉を通して、子ども達の自尊感情を高めていきたいと考えています。

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人のために生きるには、
まずは自分のために生きること

 

「PIECESの魅力は、人だ。」という安森さん。PIECESに所属している人は、価値観を押し付けずに他人の意見を尊重しながらも自分の価値観を伝えることができる人の集まりです。相手の言いたいことを上手く引き出してくれたり、話をした時に受け入れてくれる力が強い人の集まり。人への尽くし方が上手い人が、たくさんいます。

安森さん自身がなにか辛い思いをしている時、話したいと思えるのは、PIECESのメンバーです。一緒に活動をしていく中で、厳しいことを言われる時もあります。けれど、「本当に自分のことを思って、言ってくれている」ということが伝わってくるから、安森さんは安心してPIECESのメンバーを頼りにしています。

安森さんに「コミュニティーユースワーカーとは?」と伺った時、「希望」と、答えてくれました。「“希望”しかでてこない。」と。
PIECESを通して、これから更に、そのような想いを持ったコミュニティーユースワーカーは増えていき、それは子ども達の生きる希望になり、また、社会にとっての希望になっていくのでしょう。


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writer

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光成雛乃(みつなりひなの)
お茶の水女子大学 生活科学部 人間生活学科 発達臨床心理学講座4年
広島県出身でお好み焼きが大好き。中学生の時新体操部に所属していたため、いまだに体が柔らかい。PIECESでは実際に現場に行って子どもと関わり、広報ではインターン生としてライターをしている。