コミュニティユースワーカー

【CYWずかん】塚原萌香さんと「もえかん家」~10代ママひとりひとりが前に進むためのとまり木に~

人とのつながりが人を生かしていく

「この人にだったら相談できる。」そう思える人がいればいるほど、人って強くなれると思いませんか。メッセージや電話でももちろん伝わるけれども、直接顔を見て話すことでしか伝わってこないものを大切にしたい、と私は思います。

直接人と会わなくても生活が成り立ってしまう時代に生きている私たち。そんな中で、直接ママと会う機会を設けてママの悩みに寄り添い、そのママにとっての頼れる人を増やしていく。そういう関わり方でママを支えているCYW(コミュニティユースワーカー)がPIECESにはいます。
今回スポットを当てたのは、そんなCYWの第1期メンバーであり、10代ママに寄り添うプロジェクト「もえかん家(ち)」を運営する塚原萌香さんです!

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ふと思い出してもらえるような存在に

保育士になって3年目の塚原さん。PIECESでは、「もえかん家」という名前を付けて、10代ママが集まる場を作っています。そこに集まるママは、虐待家庭で育ったり発達障害があったり、貧困家庭に含まれるなどの様々な背景を抱えています。

塚原さんは、そんなママ達と個人的に会う機会を設けて、最近の近況、仕事、プライベートを聞きながら、困っていることや必要なことがあれば、それぞれの専門の人や団体につなげるという立場でママをサポートしています。
「安心基地かな。」 これは、私が塚原さんにとってのCYWの位置づけを聞いた時、最初に返ってきた言葉です。なにか困りごとがあったときに気軽に相談できる存在でありたいと、塚原さんはそう付け加えてくれました。頻繁に会えても月に一度で、毎日ママと連絡取りあっているわけでもありません。ですが「もえかん家」はまさに、ママにとっての「安心基地」になっているのです。

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フィルターを通して人を判断しない

”ママにはいろんな背景があって、昔遭っていた虐待がかなり酷かったり、壮絶な過去をもっていたりすることもあります。けれど背景関係なしに、まず私の目の前にいる“ひとりの人”として見るようにしています。”

PIECESでママと関わるようになって、塚原さん自身が「自然体で関わる事の大切さ」を学んだと言います。また、塚原さんはママの前で、自分の欠点も隠さず出すようにしているとのこと。塚原さんが過去も含めてさらけ出すことで、ママも打ち解けやすくなるような雰囲気が作られるのかもしれません。

ママが自分の過去を話してくれた時の受け止め方が難しいと塚原さんは言います。虐待に遭ったことがないから「わかる」と言いたくない。「わからないけど、気持ちを受け止めたい」という気持ちで接するように心がけているそうです。学生の時から、虐待に遭っていたり辛い経験を持つ人から話を聞いていたという塚原さん。その人たちから「わかるよ」と言われるのが嫌と聞いたり、その人たちと関わる中で、「背景関係なしに、その人はその人なんだ。違うことが当たり前なんだ。」ということを実感していったと言います。

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模範解答ではなく、ひとりひとりにとっての正解を見つけたい

支援する、されるという関係ではない。ママとは横並びの関係でありたいのだと塚原さんは強く言います。客観的に見ると“支援している”と捉えられがちなCYW。しかし塚原さん自身はママを助けているつもりはなくて、むしろママの存在に私が助けられる時もあるそうです。「CYWという立場としては、もう少し斜め上の関係であるべきなのかもしれないですけどね。」とほほ笑む塚原さんですが、フラットな関係だからこそ、塚原さんはママと信頼関係が築けているのではないでしょうか。

ママと連絡が途絶えてしまった時、その原因が自分なのではないかと自分を責めてしまっていたことがあったと言う塚原さん。悩みながら、「ママを助けてあげたい」という塚原さんの強い気持ちが、ママにとっては圧迫になっているということに気づき、ママの視点から考えて行動するようになったと言います。

実際にママの気持ちを聞いていくと、客観的にみて正解だとされるものが、ママにとっての正解ではない、ということもあるそうです。だからこそ、直接会って、長いスパンで関わり続けることで、その人それぞれにとっての正解を見つけられるのでしょう。

生きていくうえでの支えになるものとは

たくさんの人と人とのパイプを作っていくことが、ママの精神状態には良いのではないか、と塚原さんは言います。けれども、塚原さんとママのパイプがメインになってしまい、ママのパイプを増やしてあげられていないところに、塚原さんはご自身の課題を感じているようで、まずは自分の環境を広げたいと意気込んでおられました。

塚原さん自身が昔悩んでいた時、たくさんの人と繋がっていたことで助かったことがあるそうです。悩んだ時に、「この人にだったら相談できる」と、そう思える人が多ければ多いほど良いから、ママが悩んだときに、「この人なら。」って思えるような人とつなぐ立場でママのことを支えたい、とおっしゃっていました。

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これからの「もえかん家」

 CYWの3期が入って、10代ママの活動もチームで活動するようになりました。塚原さんはこれまでの経験から、チームでの活動に少し苦手意識を持っていたようですが、チーム作業をしていく中で、言葉を交わさないとより良いものになっていかないこと、チームだからできることがたくさんあることに気づかされたと言います。

10代ママの活動として、塚原さんがじっくり関わっているのは2人です。だから、もう少し多くのママと深く関わりたいと塚原さんは考えておられます。一気に関わるママを増やしたとしても、せっかくつながったのに自分が忙しくて余計ママを傷つけてしまう可能性もあるから、そこは慎重にやらなきゃいけないのだと真剣に語られる姿を見て、ママのことが本当に大好きだということが伝わってきました。

PIECESでは、「子どもの孤立」という問題に向き合い続けています。塚原さんが尽力しておられる10代ママの孤立をなくすという活動も、最終的には「子どもの孤立」を防ぐことにつながっていきます。

大切なのは、信頼できる1人の大人の存在。たった1人でいいんです。家族でもない、支援者でもない、子どもと信頼関係を築ける人。そんな大人が増えれば、「子どもの孤立」は減っていくのではないでしょうか。


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光成雛乃(みつなり ひなの)
お茶の水女子大学 生活科学部 人間生活学科 発達臨床心理学講座3年 
広島県出身でお好み焼きが大好き。中学生の時新体操部に所属していたため、いまだに体が柔らかい。PIECESでは、実際に現場に行って子どもと関わり、広報ではインターン生としてライターをしている。

【CYWずかん】学力だけじゃない、いろんな形でたくさんの子の内側を引き出したい。大畑麻衣花さんの「まなざし」とは?

支援ってなんだろう?

「支援」という言葉はなんだか、人との関係に距離をうんでしまう言葉のように聞こえないでしょうか。「子どもを支援する」といってしまうと、支援者としての「おとな」と、被支援者としての「子ども」の立場がはっきりと区別されてしまうようにイメージしてしまいませんか。

PIECESの活動も、子どもに対する支援のかたちのひとつといえるでしょう。しかし、PIECESで活動しているコミュニティユースワーカー(CYW)たちは、「おとな」でも「子ども」でもありません。「子ども」をサポートする「おとな」というより、たくさんの可能性を内側に秘める子どもたちに寄り添う存在として、PIECESで活動しています。

そんなCYWたちは、日々、何を感じて、何を考え、どのように、PIECESとして活動しているのでしょうか。PIECESで活動する彼ら一人一人の活動と想いを、『コミュニティユースワーカーずかん』シリーズで紹介していこうと思います。このシリーズを通して、PIECESと子どもとの関わりを探っていきましょう。最初にお話を伺ったのは、CYW2期生としてPIECESで活動している大畑麻衣花さんです!

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PIECESは安心基地!

現在、お茶の水女子大学三年生の大畑さん。子どもと一対一のかかわりを持つことで、子どもたちが持つ可能性を引き出していきたいという思いから、PIECESで活動しています。

児童相談所でも活動をしている大畑さんは、そこで見る子どもたちの状況に対して疑問を持つようになりました。「この子たち、こんな生活してるんだ。どこに救われているんだろう。」そしてその疑問が根本的に解決されることはありませんでした。そんなとき、Facebookで流れてきたCYW二期生の募集を見つけて、大畑さんとPIECESは出会いました。

PIECESでは、主に学習支援をしたり、体を使って子どもたちと遊んだりして、子どもとの関係を深めています。

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”対人支援をしていると、正解がわからない世界だからこそ、「失敗しちゃいけないんじゃないだろうか」ということを考えて身動きできなくなることもあります。でも、何かあったらプロの人が助けてくれるだろうくらいの気持ちでやるとちょっと楽になるので、話を聞いてくれる人のいる、戻れる場所があるということに安心できます。”

 

どんな話でも受け入れてくれ、頼れる存在であるPIECESは大畑さんにとって戻ってこられる場所であり、同時に心地よい空間であると言います。そしてその感覚はおそらく子どもにもあてはまるのでしょう。大畑さんは、PIECESの「居場所がない子の居場所をつくる」という理念に共感して活動をはじめていきました。

”場所に来てもらうという受け身な姿勢だけでは繋がりきれない子に繋がりに行く、という姿勢がすごくいいなと感じました。まだまだ認知できてなくて救われない子がいたりするんじゃないのかなって思ったんです。”

また、PIECESの子どもに対する姿勢についても共感する部分が多くあったといいます。

”個人が大人になるまでに身に付けておきたいスキルって学力だけじゃないですよね。PIECESは、それが学力だけじゃなくていろんな形があるということを、前提としている。その子に合わせた形でいいから来てもらおうとしている。そういった姿勢に、「いいな、そうだよな」って。”

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実際に活動するうえでは、CYWをはじめとした多くの人とかかわることができるため、自分の価値観に気づいたり、視野を広げていけたりすることができるのも魅力の一つである、と、大畑さんは続けます。子どもの発言や、優しく接してもらって自分の凝り固まった価値観に気づくことができたときには、「CYWはみんな、子どもに助けられているんだなあ」と感じたそうです。

大畑さんは、今の活動では、現場でCYWが子どもとどのように関わっているのかという状況を把握することが多く、一対一で密に関わるということを実践することが今後の課題だと笑って述べました。自分や現場の状況を客観的に判断することを得意とする大畑さんが、その課題に挑戦できる日が来るのは、きっとそう遠くはないでしょう。

 

プロじゃない、自分の立場だからできること。

PIECESという安心基地を起点に活動してきた大畑さん。現在は、大学三年生という立場もあり、将来のことについて具体的に考える時期にさしかかっています。今後の進路について尋ねたところ、こう語ってくれました。

”ファーストキャリアは普通の会社に入って、最終的に大きなことをするための経験を積んだ方がいいんじゃないって言ってくれる人もいるし、いろんな考えがあるのかもしれないけれど、私は、今は自分の可能性を広げていきたい。プロじゃなくても、いろんな子に関われるようになって、関わった子たちの内側をもっと引き出せるようになりたい。家庭環境とか、個人の特性とか、そういう部分でスタートラインが遅れているような子たちに何らかの形で一生関わっていきたいんです”

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社会では、合理的にみて、能力があるけれど貧困な子を伸ばしたら社会的に良くなるというように考えられる人はいっぱいいます。大畑さんはそうではなく、どんな子であれ、自分が感情的に関わりたいと思った子たちがいつでも戻ってこられる場所を提供してあげたいと強く感じているそうです。

「いつでも戻ってこられる場所」。それは大畑さんにとってのPIECESです。PIECESでは、様々な強みを持つCYWを通じて、子ども一人一人に寄り添える居場所を提供しています。PIECESでの活動を通して、CYWがそれぞれのかかわり方で子ども一人一人に関わっていくと、子どもにとってのCYWがいつでも戻ってこられる居場所になるのではないでしょうか。

「居場所がない子の居場所をつくる」ための大畑さんの挑戦は、これからも続いていきます。

 

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立教大学ドイツ文学専修三年 渡邊紗羅
PIECESで広報としてイラストを描いてチラシなどを作成しているうち、PIECESに関わる人たち一人一人の魅力を文字で伝えたいと思うようになり、『コミュニティユースワーカーずかん』シリーズを企画。映画鑑賞が趣味で、暇さえあれば劇場にお金を溶かしてしまうため常に金欠気味。PIECESでのあだ名は「さらたん」。実は大学のサークルで呼ばれた「さら単細胞」が由来で現状に至る。