2023年5月19日~21日で開催されたG7広島サミット(主要7カ国首脳会議)。PIECESはG7の公式エンゲージメント・グループであるCivil7(C7)の運営を担うG7市民社会コアリション2023の幹事団体として活動しています。
5月21日(日)に、国内外のNGO・NPOが広島に集まり、G7首脳会合に向けて市民の声を届ける「NGOスペース」にて、PIECES代表理事の小澤いぶきが「子どもの権利とウェルビーイング」に関する提言を行いました。当日は、Save the Children Japanの西崎萌さん、NTTコミュニケーション科学基礎研究所の渡邊淳司さんにもゲストとしてお越しいただきました。
提言の背景
近年、各国において「子どもの権利条約」を基盤として、子どもの最低限の生活の実現に留まらず、子ども個人の尊厳と人権を尊重したこどものウェルビーイングの実現が重要視されるようになりました。
複数の研究において、思春期以前のメンタルヘルスが、思春期以降のウェルビーイングや、心身の健康状態、大人になってからのその人の経済状況に影響を及ぼすことが示唆されています。また、子どもの権利とウェルビーイングの関係も複数の研究で示唆されています。
例えばOECD(経済協力開発機構)の調査では、子どものウェルビーイングには以下の要素が重要であると示唆されています。
楽観性(sense of optimism)
主体的に社会に参画・働きかけられているという感覚(sense of agency)
ここに居ていいのだという感覚(sense of belonging)
これらは子どもの権利に関わる問題でもあり、子どもの保健福祉医療教育を含むあらゆる分野が関わっています。しかし、日本においては、例えば以下のような実態があります。
子どもの権利条約が認知されていない
子どもの意見表明や参画の機会が限られている
子どもの精神的幸福度が低く、自殺率が高い
特定の環境や状況にある子どもや、難民の子どもが安全に暮らしたり、保護者とくらす、あるいは適切な養育環境での権利が侵害されている
また日本では、子どもの健康に関して身体的には比較的良好な状態であることが知られていますが、精神的な幸福度は低いこと(ユニセフの幸福度調査では精神的健康は38か国中37位)、10代の死因の1位が自殺であることなどが調査から分かっています。
2021年の国民生活基礎調査では、12~19歳の女性の40%、男性の31%が悩みやストレスを抱えていると答えており、2021年の全国調査では小中学生の約10%にうつ症状があり、10%以上の子どもは直近一週間に死にたい気持ちを感じたり実際に自分の身体を傷つけたと答えていることなどがわかってきています。
提言の内容
上記の現状を踏まえ、世界のさまざまな地域との協働のもと、日本においても子どもの権利の認知の拡大及び実質的保障を進めること、子どもの権利に基づくウェルビーイングの充足の実現に向けた取り組みが急務であると考え、以下の提言を行いました。
1.子どもの権利条約の周知と促進を、子どもと共にさまざまな地域や人との協働の元に行う。
ウェルビーイングは、学校のみならず、子どもが生活するあらゆる場面で実現されることが重要である。子どものウェルビーイングは、子どもの権利が土台となるため、子どもの権利が社会の文化となり浸透することが必要である。そのために、政府としても子どもの権利を保障し、普及啓発を推進することが求められる。
2.子ども若者の参画のもとで、子どものウェルビーイングについての検討、取り組み、可視化を行う。
子どものウェルビーイングに関する取り組みは、子ども同士や子どもと大人の対話、言語や文化の違いを超えたコミュニケーションを通して行われることが望ましい。そこで、子どものウェルビーイングにとって何が重要な要素であるかを、子ども自身が自ら体験し、考え、可視化・提言する機会をできるだけ多く、多様な人々と創ることが求められる。
当日の様子
西崎さんからは、Save the Children Japan で3000人の子どもたちの声をきいて行った調査の結果と、そこから見えてきた子どもの権利に関する現状や、子どもと大人の権利の尊重に対する認識の違い、子どもの声を共有いただきました。
渡邊さんからは、ウェルビーイングの要因が書かれた「わたしたちのウェルビーイングカード」を使い、中学校で行ったウェルビーイングを可視化し共有するワークを共有いただきました。大人からは出てこない発想がカードに反映されていく事例も教えていただきました。
小澤からは、これまでのPIECESで行ってきた子どもの権利を子どもや子どもに関わる大人が体験し対話する取り組みや、市民性を通した子どもや子どもに関わる私たちのウェルビーイングに関する取り組み、複数団体とともに行った国を超えて子どもたちが大切にしていることを聴き合い共有し合う企画、子どもの権利条約キャンペーンなどについての共有をしました。
参加者の声
会見には子ども記者の方もいて「若者に対してのメッセージを伝えるとしたら何を伝えたいか」などの問いを投げかけてくれました。
また、他国の方からは「僕たちは、権利が当たり前ではない体験をしたから、市民社会がそれを当たり前にしていくためにさまざまな形で協働し、取り組んできたけれど日本はまだまだだとも感じる」といった意見や「今日話されたことを初めて知った。自分たちの企業でもぜひ話して欲しい。何ができるかを考えたい」といった提案などの声もいただきました。
「自分の見ていないことを見ようとしないと、誰かのことをまるでいないかのように扱ってしまうかもしれない。だから見えていないことがあることに気づいていくことが大事だ」という大切な視点も共有いただきました。
子どものウェルビーイングを考えるプロセスに子ども自身が関わり、子ども自身の声が大切にされることの重要さ、子どもの権利の周知と、権利の尊重を進めていくことの重要さをさまざまな観点から共有する時間となりました。
PIECESでは今後も、市民性を通して、一人の人として、自分の心を大切にしながら、子ども、そして地域、社会に関わる営みを育んでいきます
執筆:小澤いぶき