10月4日(日)、「子どもたちの“生きづらさ”に心を寄せる ~孤立する子どもたちが本当に求めているものとは?~」として、NPO法人ビーンズふくしまの山下仁子さんをお招きして公開講座を行いました。
オンラインでの開催で、35名の方々に参加いただきました。
講師:山下 仁子
NPO法人ビーンズふくしまアウトリーチ事業 事業長
福島県ひきこもり支援センター ひきこもり支援コーディネーター
◆講座内容
講座は以下4つのセクションに分けて進められていきました。
・講師紹介/ビーンズふくしまの活動紹介
最初のパートでまず話していただいたのは、ビーンズふくしまの事業概要、支援の内容についてです。山下さんたちが行うアウトリーチ型支援がなぜ必要なのか、どのように有効なのかを説明いただいたうえで、「支援は必ず子どものエンパワメントを中心に置く」ということをお話いただきました。
・貧困の中を生きる子どもたち
日本の貧困情勢を数字や定義でみた後に、貧困の中で生きる子どもたちの実情について話されました。これまでに出会ってきた子どもたちからは「生きているとみんなに迷惑かけるから今から死のうと思う。でも、母親を1人にはできないから母親も殺すしかない。」「今まで頑張ってきたけど、これ以上何をどう頑張ればいいかわからない。生まれてきたのが間違いだったんだよ。」と言った発言があったそうです。その発言が生まれてくる背景には、複雑な家庭事情があること、貧困の中で生きることで、その環境が当たり前になり、違和感を持つことができず、生きる力が低下していることなどをお話いただきました。
・対談①~信じ続け、関わり続ける~
講師の山下さんとPIECESの斎で、子どもの人権について、ある女の子の事例を交えながら対談しました。母親の精神疾患などを背景に施設入所につなげていった10代半ばの女の子。ですが、そこが本人にとっては安心できる居場所にならなかった中で、自力での生活に向かっていったそのプロセスで、一人の支援者として本人の声を尊重すること、本人の力を信じること、本人の周りにいる関係者にも敬意をもって環境づくりをしていくことについて、山下さんの飾らずに温かい人柄やまなざしそのままにお話しいただきました。
・対談②~子どもと関わる上での姿勢~
前のセクションに続き、山下さんが出会った子どもたちとの話から、「子どもと関わる姿勢」について対談しました。しんどさを抱えている子どもたちに向き合うときに、どこかで真面目にやらなきゃということがあるが、山下さんの関わり方の中にはユーモアがあるという斎の言葉に対し、「困難な子であればあるほど、楽しい大人でいようという思いがある」と山下さんは語ってくださいました。また、子どもの発した言葉に対し、「心で聞いて心でこたえると、たとえそれが正解じゃなかったとしても、間違っていても優しい答えになるんじゃないか」ということも話してくださいました。
<公開講座当日の様子>
◆当日の質疑応答の様子
当日は講義動画をそれぞれで見た後に、数人ごとで感想共有を行い、全体で質疑応答を行いました。質疑応答では、「問題のある子どもに接するとき、どうしても慎重になりすぎたり、はれ物に触れるような接し方をしてしまうことがあるが、山下さんがそういった子どもたちと対等な人間として関わるために心掛けていることはありますか?」「どういうモチベーションでご活動を始めて、その後ご活動を続けているモチベーションや背景にある思いを教えていただけますか?」といった多くの質問が参加者から寄せられました。
質疑応答の中で、「その子を信じ、信じて進んで裏切られて、ということはありましたか?」という質問に対し、山下さんは以下のように答えてくださいました。
「今まで子どもと関わってきた中で、裏切られたというふうには思っていなくて。例えば約束したことを守らなかった子どもはたくさんいる。子どもが、”裏切る”という感覚で大人と関わっているのかというと、(意見が)変わったり、ちょっと嘘つきたくなったりする時もあるよなと。私は、子どもがどうやったら約束を守ることができるのか、また一緒に考えていこうというのが強いので、裏切られたから困ったということは考えていなくて。このやり方だと本人はやりにくいのかなとか。本人がやれなかったとか嘘ついてしまったとかで自信をなくしてしまうよりは、本人が約束を守れるためにはどんなやり方が良いのかと考えていくようにしています。」
また、「山下さんが、優しいこたえが子どもを包んでくれるように工夫していること、意識していることはありますか?」という質問に対しては、以下のように答えてくださいました。
「全てにおいて正解はなく、自分に何かできるとも思っていないということがまず前提にあって。こちら側も子どもの言葉で傷つくこともあれば、こちらが良かれと思って言った言葉で子どもを傷つけてしまうことがある。例えば『学校行きたいんだよね』と子どもが言ってくれたときに、どうしたら行けるようになるかというよりも、この言葉を発してくれるようになるまでに半年かかってしまった、こっちが学校の話題に触れていたらもっと早いタイミングで学校に行けてたんじゃないかと感じる。そこで私の中で出てくる言葉は、『早く気づいてあげられなくてごめんね』ということ。まず気持ちに対しての言葉をかける。発してくれた言葉だけをとるのではなく、その言葉の裏側に何があったのかを一回受け止めて、その気持ちの動きにまず応えるということをやっているかなと思います。」
寄せられた質問に対する山下さんの回答を聞くと、無理に前に進めようということではなく、発してくれた言葉に対する気持ちや発するまでの過程をまず大事にするということが、優しい答えなのではないかと思います。「子どもの声を大切にする」とはよく耳にしますが、それは頭で考えるのではなく、心で聞いて答えるということなのかもしれないと思いました。
◆感想
以下、参加者からの感想です。
・山下さんはものごとを切り取らず、複雑なものを複雑なままに受け取られているような感覚がして、まさに心で生きているんだなと思いました。「ありのままを受け止める」とか「対等な関係性」とかいろいろ語られるけれど、そういうことではなくて(もちろんそれも大事なんですが)「言葉」にならない、ただそこに存るこれまでを含む「今」そのものを見る感覚があるような感じがしました。表象されている「言葉」を見るのではなく、その「言葉」が付けられた奥にある景色はきっと「言葉」だけでは語れず、丁寧に見つめて受け取るしかないのだろうと思います。
・訴えることもない子どもや裏切られた時にはどうなのかという質問で、山下さんの心で聞いて心で答えるを理解できた気がします。子どもの状況や過去に寄り添い、その子の気持ちが出てくるまで待ちながら、心で丁寧にその気持ちを受け止める。そして、否定するのではなく、やり方が合わなかったのかな、じゃあ次にはどうしていこうかと、頭ではなく心から考えられるところが、子供が信頼して話そうと思える理由なのかなと思いました。
・「何も話さない・しない時間を成立させる」という言葉と前回の講座の「待つ」ことがリンクしたように思う。すべての子どもに対して「手を差し伸べればいい」「待てばいい」ということではなく、その子が今どのくらい自分の力を発揮できる状況であるか見極めて、そのうえで子どもの力を信じていくということが大切なのだなととても勉強になった。
第4回目は、11月1日(日)10時~12時30分で開催します。
講師に、ソーシャルワーカー・弁護士である安井飛鳥さんをお招きし、公的支援や専門職の立場からみた市民の可能性についてお話しいただく予定です。単発でのご参加も受付が開始していますので、ご関心のある方は是非イベントページをご覧ください。