虐待防止月間

「どこにも相談できない」ー子どもの孤立を考える #虐待防止月間

すぐ隣にあるかもしれない危機が、大きな綻びとなってからしか目に見えない。

すぐ近くで起きている子どもの危機が見えなかったり、家が安全でない子どもたちの居場所が日常になかったり、そんな子どもを取り巻く日常の問題が顕在化しています。

今月11月は、厚生労働省が定めた児童虐待予防の啓発を行う虐待防止月間です。

年々増加する虐待相談対応件数。死に⾄らしめるリスクのある⾝体的虐待とネグレクトを合わせるとそれらは年間約7万件発⽣し、 うち56件は実際に死に⾄っています。

子どもが危機に置かれた状態が見えづらくなる一方で、ここ数年、「子ども若者の孤立」に関する議論や、 「子どもの権利」に関する議論が日本でも少しずつ活発になってきています。

子ども庁の設置に向けた様々な議論がなされたり、子どものウェルビーイングや孤立などに関して、 世間の関心が高まってもいるといえるのではないでしょうか。

書き手:

小澤 いぶき

PIECES代表理事 / 児童精神科医 / 東京大学客員研究員

子どもの環境は複層的な要素で形成される

このような議論が活発になる前から、「子どもたち」は私たちのすぐ隣で暮らしており、私たちの関わりをはじめ様々なことが、子どもたちを取り巻く環境に影響を与えてきました。関心が向けられつつある子どもたちをめぐる環境は、⻑期にわたる複層的な要素が重なって形成されています。

では現在、子どもたちを取り巻く環境はどうなっているのでしょうか。子ども庁設置に向けての動きが活発化したり、政策が動き始めたりするなかで、あらためて子どもたちの環境を「自分ごと」として捉え直していく必要があると感じます。

私はこれまで、児童精神科医として勤務しながら、PIECESの代表をしながら、「子どもの生きる環境に、直接的であれ間接的であれ、誰もが関わっている」と感じてきました。

今回は、「子どものwell beingを取り巻く多層的な環境、つまり、政策や 環境問題、そして子どもたちに直接影響する環境」についてユニセフのレポートから考え、そうした環境を育むための、誰もが欠かせない一人であることを基にした共にできるアクションについて述べたいと思います。

「精神的幸福度」が低い日本の子どもたち

日本の子どもの「精神的幸福度」は、調査国38カ国のうちの37位である ――。

2020年にユニセフ(国連児童基金)が発表したレポートの結果を、なんとなく耳にされた方もいるかと思います。

2020年9月にユニセフ・イノチェンティ研究所が発表したレポートには、日本の子どもたちの「精神的幸福度」の低さが示されています。

このレポートにある「精神的幸福度」とは、「子どもの幸福度」の項目の一つで す。調査項目として、「生活満足度の高い子どもの割合」や「自殺率」が挙げられています。

幸福度については報告当時、ニュース などでも取り上げられて話題になりましたが、さらによくみていくと、子どもを取り巻く環境がとても複雑で複層的であることが、レポートから浮かび上がってきます。

UNICEF(2021)「イノチェンティ レポートカード 16 子どもたちに影響する世界 先進国の子どもの幸福度を形作るものは何か」

レポートから見える子どもの幸福度の実相

レポートでは「子どもの幸福度は、子ども自身の行動や人間関係、保護者のネットワークや資源、そして公共政策や国の状況から影響を受けることを示す、多層的なアプローチをとっている」とされています。つまり、子どもの幸福度には、 子ども自身だけでなく、子どもの周りの友人・知人、家族、政府、地域社会が影響しているということです。

またレポートには、子どもの権利条約の観点から、子どもたちの意見表明の機会及び意思決定への参加の重要性が、幸福度にも成⻑にも不可欠であることが記されています。

子どもの幸福度に影響を与えるより広い範囲の因子について、

  • オーストラリアでは若者の59%が、気候変動を自分たちの安全にとっての脅威であると考えており、4人に3人が政府による環境への対策を求めている

  • 子どもたちが将来についてどう考えるかは、現在の幸福度にも影響を及ぼす

などの記述もあり、例えば、環境問題を懸念している子どもは生活満足度が低い傾向にある、 といった詳細な記載もなされています。

このほか、社会的状況に関する「困った時に頼れる人がいるかどうか」という項目において、「日本は約20人に1人の大人が困った時に頼れる人がいないと感じており、38カ国中32番目であった」一方、殺人による死者は少ないのも特徴だと指摘しています。

ちなみに、内閣府が発表した 「子供・若者の意識」(出典:内閣府「子供・ 若者の意識に関する調査」) では、「どこにも相談できる人がいない」と答えた子ども・若者は21.6%にのぼっています。全て子ども・若者の現状の反映ではないかもしれませんが、子ども ・ 若者 の5人に1人が相談できる人がいないと感じていることがわかります。調査対象などが違うのでユニセフの調査と単純に比較はできませんが、子ども・若者の現状の一端を表している結果ではないかと考えられます。

 
 

私たち一人一人、そして全てが関わる問題

こうした現状を見ていくと、子どもの幸福度には、環境や政策、地域社会におけるネットワークや資源のあり方、企業等における保護者の働き方など、様々な要素が関わっていることが分かります。逆に言えば、子どものことを全て家族の責任や枠組みだけで捉えるのではなく、社会に生きる私たちの一人一人、そして 全てが関わる問題としてとらえ、向き合っていく必要があるのです。

子どもの幸福度に自分たちも関わっている。そう考えたとき、私たちは何をすればいいのでしょうか。

子どものことを置き去りにしたり、誰かの痛みをそのままにしたりする上に成り立つ社会ではなく、この世界を共にしている様々な人やものが共に生きていくために。

いったい何ができるのでしょうか。

ユニセフのレポートに示されている子どものwellbeingに関与する要素は複層的です。

例えば、直接的に子どもの暮らしにアプローチする支援者などの存在はとても重要である一方で、少し先にある地域資源の醸成や、子どもが暮らす地域や社会における子どもや教育を取り巻く政策へのアプローチ、人権へのアプローチ、子どもたちの未来に大きな影響をお及ぼす環境問題へのアプローチなど、さまざまな関わりが子どもの今とこの先に影響を及ぼします。だからこそ、子どものwellbeingに無関係な人は居らず、一人一人が何らかの形で関わることで、その多岐にわたるレイヤーが充実していくとも考えられます。

例えば、

  • 選挙権を持っているとしたら、選挙で子どもの暮らす環境や「生きる、遊ぶ、学ぶ、参加する」といった子どもの権利を考えた政策、子どもの暮らす環境が人権規範に根ざしたものになるような政策、フェアな選択肢とそのアクセスの可能性を広げる政策を支持するということもできます。

  • 企業での産業活動の中でも、人権の問題や環境の問題に自分たちがどう関わっているのかに目を向け、体制やビジネスのあり方を再考していく、あるいはプロダクトを通したリソースの紹介などができるかもしれません。自らが人権を大切にする企業になることで子どもの権利の土壌をつくることができるはずです。

  • 政治家ならば、このマップを捉えた上での政策を思案できます。

  • 地域に暮らす一人の人として、例えば挨拶を交わす、乳幼児を連れた保護者の方や妊娠している方に席を譲ってみるといった行動も一つのできることかもしれません。

  • それらの行動を起こしている団体などに寄付を通して資源を豊かにするのも一つの方法です。

子どもの幸福に関わっている1人の人としてできることは、意外と多くあるのではないでしょうか。

誰かだけが頑張るのではなく......

COVID-19により、当たり前にあった地域の日常が当たり前ではなくなる中、 すぐ近くで起きている様々な危機に気づきにくくなったり、自分の体験している 世界以外の世界がまるでパラレルワールドのように縁遠くなったりしています。 それでも、地域に根ざして活動している団体や行政機関など様々な人や団体が、 子どもとともにある社会をつくろうと頑張っています。

ユニセフのレポートからも垣間見えるように、子どもの生きる環境は複雑で多層的な様々なことに影響されています。だからこそ、誰かだけが頑張るのではなく、組織を通して、政策を通して、あるいは一人の市⺠として、いま起きていることを見つめ、構造を問いながら、そこに関わり、働きかけをしていくことが大切なのだと思います。

WHOの定義する虐待の社会的要因として、以下のようなことが挙げられています。

・ジェンダーや社会的な不平等
・適切な住宅の欠如や、家族や組織を支えるサービスの欠如
・失業率や貧困の割合の高さ
・容易にアルコールや薬物の入手できること
・児童虐待、児童ポルノ、児童買春、児童労働を防止するための政策やプログラムの不備
・他人への暴力を助長したり称賛する、体罰を支持する、厳格な性役割を要求する、親子関係における子どもの地位を低下させたりするような社会的・文化的規範の存在
・劣悪な生活水準、社会経済的不平等や不安定さにつながる社会、経済、保健、教育政策

これらの中には、文化的社会的規範や政策など、直接子どもの貧困や虐待にアプローチするプレイヤーだけでなく、一人一人が関わって変わっていくものがあり、子どもや保護者を取り巻く環境の質的、量的な変化を支えるために間接的に変化を促せるものもあります。

​​自分自身が子どもの暮らしに存在する一人の人であり、すでに自分の存在は子どもの暮らしに影響しているからこそ、これらのリスク要因を生み出す側にも、予防する側にもなり得るのだと私自身も自分に対して感じています。

泉が小川に、やがて大河となり、社会が子どもにとっても豊かになるようなうねりになる。そうした社会の営みが、子どもたちに危機が起きる前に生まれるように、自身もPIECESを通して、市民性の醸成に取り組んでいきたいと考えていますし、ぜひ、さまざまな人や団体とともに、その営みを広げていきたいと考えています。

 

「助けて」の声、なぜ聞こえない? 虐待を生む社会構造を問う #虐待防止月間

児童虐待の報道が出るたびに、養育者や児童相談所に対する強い声が生まれることがあります。私はその度に、その声は「果たして何をうむのだろうか」と考えてしまいます。

書き手:小澤いぶき(PIECES代表 / 児童精神科医 / 東京大学客員研究員)


今月11月は厚生労働省が定めた児童虐待の防止・啓発を行う虐待防止月間です。

今回はこの「虐待防止」という観点から、「助けて」と声を出しづらい社会や、「助けて」の声が届きづらい社会を作ってしまっている理由を紐解いていきたいと思います。


予防がなされている地域の検証や、なぜ児童虐待が起こったかの丁寧な検証と、検証を元に仕組みとして何を改善すると良いかを検討することはとても大事で必要なことです。ですが、この再発予防に向けた仕組みの改善を目的とする検証は、例えば養育者ややどこかの機関に全ての責任があるかのように非難することとは全く異なります。

「母親は」「児童相談所は」といった大きな主語によって語られる物語は、時にその背景にある、働き方やジェンダーギャップなどの人権の問題や複雑な社会構造を見えなくさせていることがあります。それは子どもたちの権利の問題にも目を向けづらくする一因にもなりえます。


「助けて」を言いづらくさせてはいないか?
困難をさらに潜在化させる可能性はないか?


私たちはどのようにしたら、マルトリートメント(大人の子どもに対する不適切な養育や関わり)をうむ社会のシステムにアプローチできるのでしょうか。そして、子どもの権利と尊厳を尊重し合える社会につなげられるのでしょうか。

目次

  1. マルトリートメントとは何か

  2. マルトリートメントをどのように捉えるか

  3. 子育て困難が起こるまでにどんなプロセスがあるか

  4. マルトリートメントが起きるシステムにどうアプローチするか

  5. 最後に

マルトリートメントとは何か

マルトリートメントとは、虐待とほぼ同義で使われる言葉ですが、日本語では「大人の子どもに対する不適切な養育や関わり」と訳されます。友田先生の著書及びインタビュー記事には以下のように書かれています。

「子どものこころと身体の健全な成長・発達を阻む養育を全て含んだ呼称」であり、大人の側に花街の意図があるか否かにかかわらず、また、子どもに目立った傷や精神疾患が見られなくても、行為そのものが不適切であれば、それはマルトリートメントと言えます。
(「子どもの脳を傷つける親たち」(NHK出版参照)/「PHPのびのび子育て」11月号より)

また、WHO(世界保健機関)にも、マルトリートメントとはあらゆる種類の児童虐待及びネグレクトが含まれ、結果として、子どもの健康、生存、発達及び尊厳に実際的/潜在的な害がもたらされることとされています。

Child maltreatment is the abuse and neglect that occurs to children und
er 18 years of age.
It includes all types of physical and/or emotional ill-treatment,
sexual abuse, neglect, negligence and commercial or other exploitation,
which results in actual or potential harm to the child’s health, survival,
development or dignity in the context of a relationship of responsibility,
trust or power.
Exposure to intimate partner violence is also sometimes included
as a form of child maltreatment.
(WHO HPより
https://www.who.int/news-room/fact-sheets/detail/child-maltreatment)

つまり、マルトリートメントとは「児童虐待及びネグレクトを含む子どもの健やかな心身の発達及び尊厳を阻害するような養育及び関わり」と捉えられます。

マルトリートメントをどのように捉えるか

以前、新潟県新潟市で行われた第115回精神神経学会に参加した際に拝見した、福井大学子どもの心の発達研究センターの友田明美先生の発表を参考に考えていきます。(第115回精神神経学会「ACE(児童期逆境体験)に精神科臨床はどう向き合うか」, 福井大学子どもの心の発達研究センター 友田明美)

友田先生は、マルトリートメントが起こる社会の構造自体を変えていく必要があると話されていました。そのために、マルトリートメントを子育て困難のサインだと捉え、育児の孤立化を防ぐ「子育てを社会で支える」ための共同子育てを提案しています。

子育て困難が起こるまでにどんなプロセスがあるか

マルトリートメントを子育て困難のサインと捉えると、その困難はどのようなプロセスをたどって起こるのでしょうか。友田先生の学会で発表された以下の研究に、そのプロセスが示されています。

共同発表:子育て中の母親ら養育者の抑うつ気分を見える化して子育て困難の予防を図る~社会脳の活動を計測し養育ストレスが深刻化する前兆を早期発見する評価法の開発~共同発表:子育て中の母親ら養育者の抑うつ気分を見える化して子育て困難の予防を図る~社会脳の活動を計測し養育ストレスが深刻化www.jst.go.jp

子育て困難や子ども虐待は急に起こるのではなく、「養育準備」、「健全養育」、「養育困難」、「養育失調」という過程を経て進行していくものと捉え、深刻な事態を招かないために、段階に応じた予防的な養育者支援を提案することを目指している。

養育失調までの過程の詳細は以下のように定義されています。

養育準備:未養育者、これから養育を行う者、養育を行って間もない者を含む。
健全養育:養育リスク要因がほとんどなく適切な養育を行う者を含む。
養育困難:養育リスク要因が少なからずあり適切な養育を行うのが難しい者を含む。
養育失調:養育リスク要因が比較的多くあり不適切な病的養育を行う者を含む。

上記の過程は、心身の疲れが蓄積されると、どんなに子ども思いの養育者にも起こり得ると記されていおり、加えて現代の社会の状況は、構造的に養育者心の疲れがより生じやすいのだといいます。

たとえどんなに子ども思いの養育者であっても、体の疲れだけでなく、目に見えない心の疲れの蓄積から子育て困難(そして最悪な事態として子ども虐待)に陥ってしまうリスクの線上にいると考えている。

少子化や核家族化の進行、地域のつながりの希薄化など、社会環境が変化する中で、身近な地域に相談できる相手がいないなど、子育てが孤立化することにより、その負担や不安が増大している。
(※1※1 内閣府『平成25年版 子ども・若者白書』)
こうした子育ての環境の変化は、養育者のメンタルヘルスの問題が生じやすい要因にもなっていると考えられるが、近年は子育て困難そして最悪な事態として子ども虐待や妊産婦の自殺等の予防という観点からも、メンタルヘルスの重要性が指摘されている。(※2厚生労働省 雇用均等・児童家庭局
総務課『子ども虐待対応の手引き(平成25年8月改正版)』)
子どもへの身体的虐待、性的虐待、暴言による心理的虐待、ネグレクトなど、子ども虐待につながりうる子育て困難を防止するためにも養育者のメンタルヘルスへの対応が望まれる。

つまり、マルトリートメント、虐待は、私にもそしてこれを読んでくださっている方にも起こりうる可能性が十分にあるということなのです。

さらに、「養育困難」段階までの過程において起こる心の疲れの深刻化は、脳機能を変化させ、対人関係における様々な困難さ(対人関係や、家族内の関係の困難さ、援助希求の難しさなど)につながる可能性もあります。つまり、心の疲れが深刻化すると、人との関わりの中で生まれる「助けを求める」、「自分や子どものストレングス(強み)に目を向ける余白を持つ」、「必要な情報を得る」などが困難になる可能性があるのです。

養育者が子育てを頑張る過程のどこかで、頑張ろうとしても難しい状況が生まれています。

そしてその困難は、心の疲れへのケアや深刻化への予防環境が少ない社会のシステムの問題である、と私は考えています。


マルトリートメントが起きるシステムにどうアプローチするか

福井大学の研究チームでは、子育ての中で、子育ての負担や不安から、ほぼすべての養育者が感じる気分の落ち込みといった心の疲れを表す抑うつ気分の程度差に注目しています。

心の疲れが深刻化し、養育困難への過程に進む中で援助希求や対人交流が難しくなることは孤立化を深めていきます。そのような状態になる前から、小さな困りごとやを共有しケアしあえたり、自分では気づかないストレングス(強み)に目を向けられるような体制が必要であるのではないでしょうか。例えば親以外の周囲の大人たちとの子どもを育てる共同子育てが、子育ての孤立化を予防し、負担や不安を低減する可能性がある、と友田先生は述べています。


最後に

福井大学の研究チームの研究及び友田先生の発表を通して見えてくる以下の三点は、メンタルヘルスのように見えづらいことを自分たちのこととして捉え直し、お互いをケアしやすい社会の寛容さを生み出す鍵でもあると感じます。

・虐待につながる要因に誰もが感じ得る心の疲れ」という普遍的なものがあるということ
疲れの深刻化を個人の責任とせず、「社会のシステムの問題」と捉え直した上での新たなシステムの提案。
・特別な人が虐待をするわけではなく、心の疲れが深刻化する環境であれば私にも起きうる、という「誰かのことから私たちのことへ」の、社会の共通認識の変容プロセスの設計。


私たちは、虐待という問題をどのように捉え、向き合っていくことができるのでしょうか。

11月は虐待防止月間。ぜひ一緒に考えてみませんか。


言葉にできない、子どもたちの「しんどさ」に目を向ける #虐待防止月間

環境が大きく変化する現代、今も続くコロナ禍においては、時として身体やこころの調子が変化することがあります。(変化しないこともあります。人それぞれです)例えば、ニュースなどで発信される、さまざまな情報を受け止め、環境の変化に対応するご自身や子どもたちが、ちょっとしんどいなと感じることもあるのかもしれません。

時として大人自身も自分で気づきづらい、からだやこころの変化。子どもたちの変化にどうやって気づいていくとよいのでしょうか。

今月11月は、厚生労働省が定めた児童虐待予防の啓発を行う虐待防止月間です。

認定NPO法人PIECESではこの虐待防止月間に関連して、様々な情報を更新していきます。


第二回目の記事となる今回は、子どもの状態に目を向けるをテーマに「子どもたちのサイン」と「気付いた時にできること」をお伝えします。


からだやこころのサインとは?

子どもたちに限らず大人も、たくさんの情報があって、いろんなことが変化するとき、からだやこころがいろんなサインを教えてくれることがあります。これは自然なことで、とても

大切なサインです。からだやこころのサインとはどんなものでしょう?
NPO法人ぷるすあると認定NPO法人PIECESが協働で作成した、『からだとこころのワークブック』からご紹介します。

からだとこころのワークブック -アルハから大切なあなたへ-

【からだのサイン】

こころが疲れたとき、自分では気がついていなくてもからだのサインがあらわれることがあります。

  • ごはんを食べたくない 

  • 頭がいたい 

  • おなかがいたい

  • いつもよりイヤな夢をみる など

また、ほんの少しの変化かもしれませんが、いつもと違う変化がサインとなることもあります。

  • からだがちぢこまる

  • 息をすったりはいたりするのが早い

  • からだにちからが入らない など

『からだとこころのワークブック』より

『からだとこころのワークブック』より

【こころのサイン】

日常のちょっとしたことに対する気持ちや行動に、こころのサインがあらわれることがあります。

  • 外にでるのが不安になる

  • なんだかイライラする

  • 自分が今どんな気持ちか わからなくなる

  • だれかをたよる、相談する ことがむずかしくなる

  • スキなことを やる気も起きない

  • いつもよりだれかにあまえたくなる

  • 人のことがこわい … など

『からだとこころのワークブック』より

『からだとこころのワークブック』より

ご自身やお子さんにいつもと違う、ちょっとした変化のサインはあるか、丁寧に見てみてください。


不安になった時は子どもにどんな変化があるの?

特に、子どもたちは、、言葉で伝えてくれる以外に、様々な形でサインを出してくれていることがあります。まわりの大人が、「困ったな」と感じている時、子ども自身、何かも、例えば何かに困っているなど、いつもとは違うことが起こっているのかもしれません。そしてそのサインを教えてくれているかもしれません。

以下は子どもの年齢によりますが、時として見られるサインです。

・おねしょが増える、頻尿になるなど
・ご飯の量が減る/寝つきが悪い、途中で目が覚めるなど
・いつもより甘える、一人でいるのを怖がる
・会話が減った、なにか言いかけてやめるなど
・いつもよりこだわりが強くなる、なんども同じことを聞く、やる
・いつもより落ち着きがなくなる、そわそわする、イライラしやすい
・兄弟などとの揉め事や喧嘩が増えた
・勉強に集中できない など

子どもたちの「いつもと違う何か」のサインを知っていることで、起きていることだけ目を向けず、その背景にある「困りごと」や「環境の変化」に目を向けることができるかもしれません。

参考)

① 新型コロナウイルスに関してのこころとからだのケアvol1~家庭や子どもの居場所などでできるケア~|Ibuki Ozawa|note

② 名もなき痛みが教えてくれたこと〜見えないことへの想像力〜|Ibuki Ozawa|note



子どもや保護者からの「助けて」のサインの見つけ方

たとえば以下のような普段と違う様子が見られた場合は、その子どもや保護者が、困りごとやしんどさを抱えている可能性があります。

(1)子ども

  • 普段は見られない不自然な傷やアザなどの身体的な変化がある

  • 普段より活気がない、ぼーっとしている、おびえた様子であるなど、表情や様子の変化がある

(2)保護者

  • ひどく疲れている、精神的に不安定な様子である

  • 子どもに対する関わり方が普段より厳しくなっていたり、イライラした様子である

子どもや保護者の様子を見ていて、「大丈夫かな」「心配だな」と感じたときは、以下の章を参考に、直接・間接のコミュニケーションやサポートを試みましょう。

サインに気づいたあと、サポートするためにできること

子どもたちが安全に過ごすために周囲の大人たちができるサポート方法をご紹介しているので、ぜひご覧ください。

① 子どもたちのサインに気づき、サポートするためにできること — とどけるプロジェクト 

② 新型コロナウイルスに関してのこころとからだのケアvol1~家庭や子どもの居場所などでできるケア~|Ibuki Ozawa|note


厚生労働省では毎年11月を「児童虐待防止推進月間」と定め、家庭や学校、地域等の社会全般にわたり、児童虐待問題に対する深い関心と理解を得ることができるよう、期間中に児童虐待防止のための広報・啓発活動など種々な取組を集中的に実施しています。1ヶ月の間に様々な啓発活動が行われ、さまざまなニュースに触れると、いつもよりも周りの変化に気づきやすくなっているかもしれません。もしも、虐待の可能性や危険を感じた場合は、ひとりで抱え込まず、児童相談所に連絡してください。

虐待の可能性や危険を感じた場合

児童相談所は決して懲罰的な機関ではなく、子育て全般の相談ができる場所です。心配な様子の家庭が児童相談所とつながることで、必要なサポートにつながったり、困りごとが解消されたりする可能性があります。

●まずは「189」に電話相談●

「189」に電話をかけると24時間365日無料で、最寄りの児童相談所につながります。相談者の氏名や相談内容に関する秘密に関しては口外されないよう定められているため、相談者にとって安心して相談しやすい環境が整えられています。もし児童相談所の担当者に対して氏名を明かしたくない場合は、匿名での相談も可能です。

この他にも、「子どもの人権110番」では、電話相談に加えてメール相談も受け付けていますので、ご都合に応じてご利用ください。

児童相談所虐待対応ダイヤル
・電話:189 (無料)

子どもの人権110番
・電話:0120-007-110 (無料)(受付時間 平日午前8時30分~午後5時15分)
・メール相談:https://www.jinken.go.jp/

***

悲しい事件を目にすると、誰かのせいにしたり、正しさをかざしたくなります。
でも、それは、私たちの日常と地続きで起きていて、決して他人事ではありません。
地続きである、その背景を想像してみることができると思います。

気がかりをそのままにしないで、何かできるアクションを考えてみませんか。
子どもたちが安心して過ごせる未来は、私たちひとりひとりがつくっていけると信じています。

文:藤田奈津子


PIECESでは虐待防止月間の11月、児童虐待防止のために大切な情報をシェアしていきます。これから記事やイベントなどで皆さんと共に考えていく時間をつくっていきますので、ぜひシェアなどしていただけると嬉しいです。

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想像力や優しさを広げるために。私たちが心がけたい、虐待のニュースの受け止めかた #虐待防止月間

小さな命が奪われた事件を耳にすると、やるせなさや憤りを感じたり、ぎゅっと胸が苦しくなって、その悲惨な現実から目を背けたくなってしまうことがあります。

ニュースを目にすると、私たちには児童虐待に関するセンセーショナルな事件が舞い込んできます。そんな時、社会では事前に防ぐことのできなかった虐待を、その保護者や、児童保護に関わる機関の失敗だと批判する声が聞かれますが、非難をするだけでは子どもたちを守ることには繋がりません。

では、どうしたら子どもたちは安心できる環境で子どもらしく生きられるのでしょうか。


今月11月は、厚生労働省が定めた児童虐待予防の啓発を行う虐待防止月間です。
認定NPO法人PIECESではこの虐待防止月間に関連して、様々な情報を更新していきます。

第一回目の記事となる今回は、世の中に溢れる情報をシェアする前に、あなたに知っておいてほしい大切なことをお伝えします。PIECES代表理事 児童精神科医の小澤いぶきが紡ぐ、「虐待を予防するために知っておいてほしい、センセーショナルなニュースの受け止めかた」とは。

  1.  知っておきたいニュースの受け止め方とあなたにできること

  2. 【付録】日本における児童虐待の現状

今この瞬間にも、安全な頼り先がない中で一人で頑張って生きている子どもたちがいるということ。その子たちが置かれている環境やそれが起こった背景を知るために私たちに必要なまなざしとは何か、一緒に考えていきましょう。


知っておきたいニュースの受け止め方とあなたにできること

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小澤 いぶき Ibuki Ozawa

PIECES 代表理事 / Founder
東京大学医学系研究科 客員研究員 / 児童精神科医

11月は虐待防止月間です。1ヶ月の間に様々な啓発活動が行われると思いますが、今回はそもそも私たちが虐待のニュースを知った時にできること、そのニュースの受け止め方についてお伝えできたらと思います。

例えばアメリカには、メディアが家庭内における暴力を報道するにあたってこんなガイドラインがあります。


― Often, news coverage about child abuse and neglect focuses on the shocking and brutal results of individual cases of abuse—a perspective that can reinforce misperceptions that “bad parenting” or a failure of child protective services is the main cause of child maltreatment. 

Journalists can help audiences understand that child abuse and neglect is not simply the result of individual failures or family dynamics, but a public health issue that affects communities and society in significant ways. 

By working with prevention researchers, practitioners, and other experts, journalists can craft news stories about child maltreatment that convey not only the problem but also possible solutions. ―

ーー虐待やネグレクトに関するニュースの多くは、個々の虐待のケースがもたらす衝撃的で残忍な結果に焦点を当てています。そういった視点は、単に個人の“悪い子育て”や、児童保護に携わる機関の失敗が、子どもへのマルトリートメント(不適切な養育)の主な原因であるという誤解を強めてしまいます。

そこで、ジャーナリストができることは、児童虐待やネグレクトが、単に個人の失敗や、家族の関係・動態によるものではなく、コミュニティや社会に重大な影響を及ぼす公衆衛生の課題だと、受け手に理解を促す報道をすることです。

ジャーナリストは、予防に携わる研究者や専門家とともに取り組み、子どものマルトリートメントに関して、問題だけではなく、可能な解決策を伝えることができます。

アメリカ・疾病対策予防センター「児童虐待・ネグレクトに関する報道での推奨例」より一部抜粋

私は、ここでいうジャーナリストを単にマスメディアのことだけだとは考えていません。簡単に誰もが世界に向けて発信することができるようになった今、一人一人が情報を媒介しうること、それによる影響があることを知っておくことが重要なのではないかと考えています。

センセーショナルなニュースは目に止まりやすく、拡散力があります。そのときに知っておいてほしいことは、私たち一人一人のシェアしたその情報が、虐待が起こる社会の綻びを大きくしてしまっていないかということです。

例えば、

・ニーズに合わせた情報や困りごとの解決・虐待の予防につながる情報をシェアする

「この地域にはこんな遊び場があるよ」

「私も困ったときにここに相談しました」

「**の地域にはこんな団体があって、こんなことをしているようです」

・今できることやグッドプラクティスを紹介する

「子育て世代を応援する取り組みが今始まっているみたい。 #** で投稿しているみたいだよ」

「以前こんな風に解決したこともあるみたいです」

・虐待が公衆衛生の問題だということを伝える

「この問題をつくりだしている社会の構造は何だろう?」

「すでにあるグッドプラクティスや、資源を伝えることが必要だね」


といったように、不安や悲しみ煽るのではなく、心を落ち着かせて今ある良い選択肢を提示するという方法もあります。このように伝えれば、情報を受け取った人が過度に不安を高めるのではなく、安心して誰かに頼ったり、相談したりしやすくなるかもしれません。


そして同時に、虐待のニュースを見たときの自分自身の感情も大切にしてみてください。怒りや悲しみ、無力感、自分が責められているように感じる。そんな様々な感情は、自分自身のことを知り、虐待を予防する大切な感情です。

もし少し余白があれば、こうした感情が起こった背景にご自身のどんな願いや経験が影響しているのか、社会に起こってきたことがどう影響しているのか、そっと見つめてみてください。

「私はなぜ、悲しいと感じたのだろう」

「憤りを感じたのには、こうあるべきという私の理想があったのかも」

「悲しさの感情のわけは、自分の過去の経験が思い起こされたからかもしれない」

そんな風に自分に起こった感情の背景を想像してみると、時にその感情の背景には自分自身の願いや価値観、経験してきたことが存在する場合があります。

しかし決して自分の感情を否定的に捉える必要はありません。起こったどの感情も大切な感情で、それを感じられるのは自分の力でもあります。だから、その感情をゆっくり丁寧に受け止めてみてください。

また、その感情を感じることで自分が疲れるという時には、感情を喚起するニュースから離れてみてください。

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自分の感情をそっと丁寧に受け止めたあとに余裕があれば、ニュースが伝えていない複雑な背景を調べ、想像してみていただけたらと思います。

「虐待ってそもそも家族だけの問題なの?」

「育児環境の困難さや、困窮した状況はどんな社会の構造から生み出されているのだろう?」

「私はそこにどんな風に関わっているのだろう?」

「誰かに相談することができなかったのは、親の責任?」

「他の地域ではどんな取り組みがあるのだろう?」

ひとつ一つの疑問を考えて、「こんな社会だったら予防ができたかもしれない」と想像してみてください。安心して相談できる環境が近くにあったら、こんな制度があったら、こんな文化が醸成されていたら。どんな社会だったらその子も保護者も安全で、予防がなされていたのでしょうか。

そして改めて考えてみてください。ニュースを見たあとに、親や保護に関わる機関を非難することはかえって、子どもたちの周りにいる人たちが誰かに頼ることを躊躇わせたり、児童保護の機関で働く人たちを疲弊させたりしてしまわないでしょうか。

残念ながら、日本にはまだ冒頭で示したアメリカのような報道ガイドラインがありません。そんな中、私たちにできることの一つは出来事の一部を切り取り、センセーショナルに伝えたり、誰かやどこかの機関をスケープゴートにするような発信ではなく、子どもの生きる環境の安全を育み虐待が生まれにくくする社会をつくるために言葉を紡ぎ直して発信をすることなのではないかと思います。

また、繰り返しになりますが、報道により自分の状態がいつもと違うなと感じる時、報道から離れ、自分が少しだけケアされる時間を作ることもとても大切なことです。

一人の子どもが虐待を受けることは、その家庭だけでなく社会の問題です。子どもに起きていることが社会を映す鏡だとしたら、その出来事は遠くの誰かのことではなく、私たち自身のことでもあります。

裏を返せば、それは私たち一人ひとりが、より良い社会に向けてできることがあるということです。だからこそ、虐待というテーマの中で、不安や怒りを煽るような情報ではなく、想像力や優しさを広げていくような、一人ひとりの行動を促すような発信が広がっていったらと思います。


【付録】日本における児童虐待の現状

正しく情報を理解するためには、児童虐待の現状を知っておくことも必要です。
「児童虐待は毎年増えている」「虐待問題は世代間で連鎖する」など、巷でよく耳にすることは果たして本当なのでしょうか。

死に⾄らしめるリスクのある⾝体的虐待とネグレクトは年間約7万件発⽣し、 うち52件は実際に死に⾄っている。

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児童虐待には身体的虐待、ネグレクト(育児放棄)、性的虐待、そして心理的虐待の4種類があります。その中でも年々増加傾向にあるのは心理的虐待です。


虐待相談対応件数は年々増加し、平成30年度は約16万件までのぼっています。この中には「子どもに手を上げてしまった」「子どもを激しく叱ってしまった」といった親自身からの相談も含まれており、数が増えたことを単に問題が増えたからだと受け止めるのは誤解を生む可能性があります。また、2020年の新型コロナウイルス禍において虐待相談対応件数が増加したと言われていますが、COVID-19との関連は今のところ不明のままです。

児童相談所に寄せられた相談のうち、身体的虐待とネグレクトを合わせると約7万件。児童養護施設に一時保護される子どもの数は年間約2万件、社会的養護の環境に置かれた子どもは年間約4500件です。

心中を除く虐待死は平成29年で49件、平成30年は52件。その件数は、この数年間横ばいで推移しています。

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虐待の発生要因を探ってみると、様々な社会の綻びが見えてきます。

ひとり親家庭や貧困などの家庭環境的要因、親自身の鬱傾向など精神的健康が保たれていないなどの養育者の要因。家庭が地域で孤立をしていたり、職場からの理解が得られず育児に過度なストレスがある環境も虐待が起きる一つの要因となります。

こうしてみてみると、親や保護に関わる機関を非難することは問題を解決しうるのか、という問いへの答えは自明のことと思います。

そもそも虐待などの危機の手前には、何かしらの社会の綻びがあるはずです。その社会の綻びを編み直すことで、子どもの周りの不条理や危機が起きづらい社会にしていくことを考える必要があるのではないでしょうか。

文・写真:若林碧子


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