夏休みなどの長い休みが終わるとき、新学期にワクワクしたり、ちょっぴり憂鬱な気持ちになったり、嫌だな、行きたくないなと感じたり、休み中に生活していた場所以外の選択があることにほっとしたり、さまざまな気持ちが出てくるかもしれません。
そういった気持ちをもつことは特別なことではなく、どんな気持ちも子どもたちの大切な気持ちであることに変わりはありません。
そんな中、しんどい、憂鬱だよ、休みたい、という気持ちを、周囲に安全に話せる環境が少ないと感じている子どもたちもいるかもしれません。
どんな気持ちか言葉にしづらいとき、子どもたちはからだやこころの変化をサインで教えてくれることがあります。それはもしかしたら、その子が安全ではないことの大切なサインかもしれません。サインが現れることはとても自然なことであり、子どもたちがもつ力でもあります。
例えば、遊ぶこと、休むことも子どもの大切な権利。
自身の状態を教えてくれる大切なサインを私たち大人は大切に受け止め、子どもが1人だけで頑張る以外の選択肢とつながる道を、子どもの声を聴きながら子どもの周りにつくっていく必要があります。
からだやこころのサインとは?
【からだのサイン】
・ごはんを食べたくない
・頭がいたい
・お腹がいたい
・いつもより嫌な夢をみる
・身体がちぢこまる
・息をすったりはいたりするのが早い
・身体に力が入らない など
【こころのサイン】
・外にでるのが不安になる
・なんだかイライラする
・自分が今どんな気持ちかわからなくなる
・だれかを頼る、相談することが難しくなる
・好きなことをやる気も起きない
・いつもよりだれかにあまえたくなる
・人のことがこわい
・自分のことを傷つけたくなる など
※NPO法人ぷるすあるはとPIECESが協働で作成した『からだとこころのワークブック』から抜粋
子どもとのコミュニケーションで大切なこと
いつもと違うサインが出ているなと感じたときは、以下のことに気を付けて子どもたちとコミュニケーションを取ってみてください。
【言葉かけ】
・子どもの感情を否定せずに受け取る
子どもは言葉だけではなく、さまざまな形で自分の気持ちのサインを出しています。
さまざまな表現を丁寧に受け取り、子どもがどんな体験をしているのかを共有する安全な場をつくってみてください。
・子どものこころに声に耳を傾け、受け取る
自身の経験や判断、思い込みをちょっとだけ傍に置いて、子ども自身が何を感じ、どのような体験をしているか、声にしていない心の声に耳を傾けてください。
そして、教えてくれた体験や感情に対して、共有してくれた勇気への敬意を持ちながら、ジャッジすることなく「受け取ったこと」を肯定的に伝えてみてください。
・このような感情を抱くことは自然なことだよと伝える
子ども自身が「どうしていいか分からない」様子がある場合は、そのように感じることもとても自然なこと、そう感じることを共有してくれてありがとうということを伝えてください。
そして話したいタイミングで話して大丈夫だということ、一緒に考える方法もあるということ、私も一緒に考えたいと思っていることを共有してみてください。
・選択肢の情報を共有する
「私以外にも、こんな人に聞いてみたり、こんな場所に行ってみる、こんな選択肢もあるみたいだよ」とうことを、押し付けるのではなく、子どもがどうしたいかを大切にする姿勢で共有するなど、選択肢の情報共有もとても大切なことの一つです。
また、今が安全でないと感じたり、もし死にたい気持ちが強い、自分を傷つけることがやめられない場合は、子ども自身に安全について丁寧に共有し、まず安全を確保しましょう。
【行動】
・習慣を大切にする
毎日行っている習慣や日課を大切にしてみてください。規則正しい生活(いつもと同じ時間に寝る、ご飯を食べるなど)は安心感に繋がることがあります。
・やっていること、できていることに目を向ける
歯を磨いた、ご飯を食べた、好きなことをした、漫画を読んだ、疲れたから横になった、深呼吸したなど、私たちは負荷がかかっている時でもたくさんのことをしています。
そういったできていることに目を向けて見てください。書き出したりリストにしてみることも方法の一つです。
・子どもの声を聴く環境をつくる
大人が伝えるだけではなく、何より子ども自身の考えや感じていることを聴くことを大切にしてください。
今日と明日で意見が変わるのも自然なことです。それを子どもと共有し、安全に声を出していいと思える環境をつくってみてください。
子どもにかかわることは、子どもの考えをまず聴き、話し合って一緒に決めるようにしましょう。
・「どうしたいか」を尊重する
子どもの「どう過ごしたい」「どうしたい」という気持ちを尊重する時間を作ってみてください。
子どもの力を信じてかかわる
どんなに小さくても、子どもは尊厳ある一人の人間であり、権利の主体でもあります。子どもに、そして自分に関することに関わり、意見を表明する権利があります。
大人がそうであるように、それぞれの考えや視点、感情をもっています。
子どもたちの声に耳を傾け、尊重することから心地よいコミュニケーションが始まります。
また、人の心は揺れて変化します。今日と明日で違うことを伝えてくれることも大切に受け取りましょう。
一人の権利主体であり、尊厳ある「人」として子どもと関わることで、関わる大人自身の中に葛藤が生まれることもあるかもしれません。自身の葛藤も大切にしながら、関わる大人もまた、自分が一人の人として大切にされたり、ケアされる時間をつくってください。
執筆:小澤いぶき(PIECESファウンダー/一般社団法人Everybeing 共同代表)
2023年の小中高校生の自殺者数は513人と、統計がある1980年以降で最多となった2022年から高止まりしていることが厚生労働省より発表されています。
特に、夏休みなど長期の休み明けは、子どもたちがさまざまな感情を抱き、不安定になりやすい時期です。
18歳以下の子どもの自殺は長期休業明けに増える傾向があるとして、文部科学省や厚生労働省は注意を呼びかけています。
子どもたちの安全な環境と選択をつくるのは社会の責任でもあります。
子どもたちは私たちのすぐ隣で暮らしており、私たちのふるまいや関わりは、子どもたちの暮らしに影響を与えているからこそ、子どもを尊厳ある一人の人としてみつめ、子どもの「こころの声」に耳を傾け、子どもと共にある社会と日常を育んでいくくことが大切です。
「まもろうよこころ」(厚生労働省ウェブサイト)
こどもの相談窓口(こども家庭庁)
子どものこころのケアに役立つ資料(兵庫こころのケアセンターより)